第6回日本地域理学療法学会学術大会

Presentation information

一般口述

健康増進1

[O] 一般口述2

Sat. Dec 14, 2019 1:00 PM - 2:00 PM Room3 (East Building 2nd floor, Middle Conference Room)

座長:藤原 邦寛(あすかい診療所  通所リハビリテーション)

[O-007] 腰痛と地域の失業率の関連
962,586人の労働者のマルチレベル分析

*池田 登顕1,2、杉山 賢明2、相田 潤2、坪谷 透2、小坂 健2 (1. 山形大学大学院 医学系研究科 医療政策学講座、2. 東北大学大学院 歯学研究科 国際歯科保健学分野)

Keywords:繰返し横断研究、ベイズ法、完全失業率

【はじめに・目的】
腰痛は我が国において最も有訴者率が高く、健康寿命の短縮に大きく寄与している症状の一つである。近年、我が国において地域レベルの社会経済状況(Socioeconomic status; SES)が、個人レベルのSESに加えて、健康格差を生じさせる要因の一つとして報告されている。なかでも、地域レベルの失業率は労働者人口において、死亡率やうつ症状などと関連することが報告されており、政策などによって修正可能な地域レベルの重要なSES指標である。しかしこれまで、腰痛と地域レベルの失業率の関連を検証した疫学研究は存在していない。そこで本研究は、労働者人口において、各都道府県の失業率が腰痛の有訴と関連するかどうかを検証した。
【方法】
本研究は、政府統計調査の個票データを二次利用した繰り返し横断研究である。目的外使用の利用許可を得た2010年・2013年・2016年の国民生活基礎調査の世帯票および健康票のデータセットをリンケージさせて用いた。調査の回答世帯数は、2010年289,363世帯(返答率:79.4%)、2013年295,367世帯(返答率:79.6%)、2016年289,470世帯(返答率:77.6%)であった。まず労働者を抽出するため、1) 18歳未満、2) 65歳以上、3) 学生を除外した。その結果、計962,586名[2010年:340,539名(平均年齢 44.5歳)、2013年:327,533名 (平均年齢 44.6歳)、2016年:294,514名(平均年齢 44.8歳)]を分析対象とした。
腰痛と都道府県の失業率の関連の検証にはデータの階層性を考慮するため、マルチレベルロジスティック回帰分析(レベル1:個人、レベル2:調査年、レベル3:都道府県)を用いた。推計にはベイズ法を用いた。従属変数は、健康調査票における腰痛の有無とした。独立変数は、国の労働力調査の公表値を用い、各調査年・各都道府県の完全失業率(労働力人口に占める完全失業者の割合)とした。本研究における完全失業者の定義は、国の労働力調査に準じ、以下の3条件を満たしている者とした:1)仕事がなくて少しも仕事をしていない、2)仕事があればすぐ就くことができる、3)仕事を探す活動や事業を始める準備をしている。共変量は、性別・年齢・同居人数・学歴・職業とした。
【結果】
腰痛有訴率は2010年9.8%、2013年9.7%、2016年9.4%であった。また、都道府県レベルの失業率は2010年4.8%、2013年3.7%、2016年2.8%であった。全共変量を調整したマルチレベルロジスティック回帰分析の結果、失業率上昇と腰痛が有意に関連していた[オッズ比(95%確信区間):1.02(1.01–1.03)]。
【結論】
完全失業率が1%上昇する毎に、我が国の労働者人口における腰痛有訴者が150万人増える試算となった。失業率の高い都道府県における予防を含めた腰痛への積極的な介入の重要性が示唆された。

【倫理的配慮、説明と同意】
本研究は、東北大学大学院「人を対象とする研究」に関する倫理審査委員会の承認(番号:#14429)を受けて行われた。