第6回日本地域理学療法学会学術大会

講演情報

一般口述

社会参加

[O] 一般口述6

2019年12月14日(土) 15:20 〜 16:20 第3会場 (東館2階 中会議室)

座長:細井 俊希(埼玉医科大学 保健医療学部理学療法学科)

[O-032] 通いの場は参加者の日常生活の歩数を増加させるか

*北村 優1、横山 芽衣子2、辻 大士2、大野 孝司3、近藤 克則1,2,4 (1. 日本老年学的評価研究機構、2. 千葉大学、3. NTTデータ経営研究所、4. 国立長寿医療研究センター)

キーワード:運動機能、通いの場、活動量

【はじめに・目的】厚生労働省が2014年度より開始した「地域づくりによる介護予防推進支援事業」の展開を受け,介護予防効果が期待される通いの場は年々増加している。通いの場の介護予防効果に関する報告は徐々に増えてきているが,通いの場の利用とそれに伴う歩数の変化に関する報告はまだ少ない。そこで,本研究ではプロセス評価として,通いの場が参加者の歩数に与える影響の検証を目的とした。
【方法】千葉県長柄町にて,2017年10月~2018年12月または2018年5月~12月の2つの調査期間に通いの場の参加者に対して無料で歩数計を配布した。これを受領した231人のうち,1)歩数計の使用期間が90日以上あること 2)歩数計の記録が平均週5日以上あること 3)活動量計の配布前である2017年に日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study :JAGES)プロジェクトの一環として,要支援・要介護認定を受けていない65歳以上を対象に配布する「健康とくらしの調査」の質問紙調査票に回答したこと,の3条件を満たした55人(年齢74.3±5.6歳,男性9人,女性46人,脱落率76.2%)を本研究の対象とした。分析方法として,1)全参加者の通いの場参加日と非参加日の歩数の差をMannwhitney U-testにより分析した。2)「健康とくらしの調査」の運動機能に関する5つの質問について,運動機能の低下に繋がる回答が1つ以上該当した参加者29人を運動機能低下予備群(予備群)とし,非該当の参加者26人を健常群として層化し,各群の参加日と非参加日の歩数の差をWilcoxon signed rank testを用いて分析した。
【結果】全参加者の歩数は,参加日が5284歩,非参加日が5066歩であり,参加日と非参加日の歩数の有意差は認められなかった(p=0.34)。予備群の層では,非参加日の歩数が25%タイル値:2597歩,中央値:4326歩,75%タイル値:6836歩に対して,参加日の歩数はそれぞれ2775歩,4565歩,7107歩であり,参加日の歩数が非参加日よりも有意に多かった(p<0.001)。一方,健常群の層では,非参加日の歩数が3724歩,5893歩,8972歩に対して,参加日の歩数は3562歩,5938歩,8243歩であり,非参加日の歩数が参加日よりも有意に多かった(p<0.001)。
【結論】長柄町の通いの場参加者の歩数を計測した結果,運動機能低下の違いによる通いの場参加日と非参加日の歩数において異なる結果を得た。予備群は非参加日の歩数が少なく,通いの場への参加により外出機会が増えた結果,歩数も増加したと考えられる。一方,健常群では参加日よりも非参加日の歩数が多かった。非参加日が活動的な健常群は,通いの場に参加するために他の用事を控えるなどした結果,参加日の歩数が抑制されたのかもしれない。本研究の結果より,長柄町の通いの場は運動機能の低下が疑われ,日常の歩数が少ない場合,歩数を増加させることが示唆された。歩数の増加は,運動機能の低下抑制や改善の可能性が考えられ,通いの場の利用による介護予防効果が期待できる。

【倫理的配慮、説明と同意】
本研究は千葉県長柄町と千葉大学予防医学センターの共同研究であり,千葉大学大学院医学研究院倫理審査委員会より承認(第2659号)を得て実施した。参加者には長柄町より本研究の目的,方法,期待される結果,研究協力に関する利益及び不利益,研究の実施と公表について説明の上,同意書により同意を得た。参加者の個人情報は個人情報保護法及び長柄町の個人情報保護条例のもと適切に管理した。本演題発表に関連して,国立研究開発法人日本医療研究開発機構より平成28-30年度パーソナル・ヘルス・レコード(PHR)利活用研究事業「介護予防政策へのパーソナル・ヘルス・レコード(PHR)の利活用モデルの開発」として研究費を受けている。