[O-061] 地域在住高齢者の呼吸機能は認知機能に影響を及ぼす
1年間の縦断的観察研究
Keywords:認知機能、地域在住自立高齢者、呼吸機能
【はじめに,目的】高齢者の呼吸機能低下は生活機能の低下や生命予後に影響することが示されている.さらに,高齢者の呼吸機能は運動機能や認知機能とも関連するという報告もある.従って,高齢者に対する呼吸機能の評価は,健康有害事象の発生や心身機能の低下を予測しうる指標として有用である可能性がある.一方,高齢者の呼吸機能と認知機能および運動機能との関連性については,縦断研究が不足しているため,因果関係が不明確な部分も多い.そこで本研究では,1年間の縦断的観察研究にて,地域在住高齢者の呼吸機能が将来の認知機能や運動機能に与える影響を明らかにすることを目的とした.
【方法】研究デザインは縦断的観察研究とした.対象は,1年間の追跡調査が可能であった要介護認定のない65歳以上の地域在住自立高齢者284名(男性71名,女性213名,平均年齢71.7±4.8歳)とした.除外基準は,呼吸器疾患を有する対象者,明らかな認知機能障害を有する対象者とした.ベースライン時点での調査項目は,呼吸機能,運動機能,認知機能,基本属性とした.呼吸機能としては努力性肺活量(Forced vital capacity:FVC)を測定した.運動機能としては,握力,膝伸展筋力,Timed Up and Go Test,快適および最速の5m歩行時間,5回Chair Stand Testを測定した.認知機能は,遂行機能を反映するTrail Making Test part A(TMT-A)を測定した.加えて,基本属性としては,年齢,性別,Body mass index(BMI),老研式活動能力指標,服薬状況を調査した.さらに,1年後の追跡調査において,ベースラインと同様の運動機能と認知機能を再度測定した.統計解析は,1年後の各運動機能またはTMT-Aを従属変数とし,ベースライン時のFVCを独立変数,基本属性およびベースラインでの各運動機能またはTMT-Aを調整変数とする一般線形モデルにて解析を行った.なお,統計学的有意水準は5%とした.
【結果】一般線型モデルによる解析の結果,年齢,性別,BMI,老研式活動能力指標,服薬状況で調整しても,ベースラインのFVCが1年後のTMT-Aと有意な負の関連を示した(非標準化回帰係数=−4.74,p=0.01,R2=0.36).すなわち,ベースラインのFVCが低いと1年後のTMT-Aが増加することが示された.一方,運動機能については膝伸展筋力のみ,ベースラインのFVCと関連傾向を認めたが,統計学的有意水準には達しなかった(p<0,1). 【結論】地域在住自立高齢者の呼吸機能は,運動機能へは明確な影響を認めなかったが,遂行機能に影響することが示された.従って,高齢者の呼吸機能は,運動機能低下の予測には限界があるが,認知機能低下を予測する指標として有用である可能性が示唆された.
【倫理的配慮、説明と同意】
本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認をうけて実施した(承認番号 2016-G021B).また,全対象者に対して書面および口頭にて,研究目的および内容について説明し,研究参加に関する同意を得た.
【方法】研究デザインは縦断的観察研究とした.対象は,1年間の追跡調査が可能であった要介護認定のない65歳以上の地域在住自立高齢者284名(男性71名,女性213名,平均年齢71.7±4.8歳)とした.除外基準は,呼吸器疾患を有する対象者,明らかな認知機能障害を有する対象者とした.ベースライン時点での調査項目は,呼吸機能,運動機能,認知機能,基本属性とした.呼吸機能としては努力性肺活量(Forced vital capacity:FVC)を測定した.運動機能としては,握力,膝伸展筋力,Timed Up and Go Test,快適および最速の5m歩行時間,5回Chair Stand Testを測定した.認知機能は,遂行機能を反映するTrail Making Test part A(TMT-A)を測定した.加えて,基本属性としては,年齢,性別,Body mass index(BMI),老研式活動能力指標,服薬状況を調査した.さらに,1年後の追跡調査において,ベースラインと同様の運動機能と認知機能を再度測定した.統計解析は,1年後の各運動機能またはTMT-Aを従属変数とし,ベースライン時のFVCを独立変数,基本属性およびベースラインでの各運動機能またはTMT-Aを調整変数とする一般線形モデルにて解析を行った.なお,統計学的有意水準は5%とした.
【結果】一般線型モデルによる解析の結果,年齢,性別,BMI,老研式活動能力指標,服薬状況で調整しても,ベースラインのFVCが1年後のTMT-Aと有意な負の関連を示した(非標準化回帰係数=−4.74,p=0.01,R2=0.36).すなわち,ベースラインのFVCが低いと1年後のTMT-Aが増加することが示された.一方,運動機能については膝伸展筋力のみ,ベースラインのFVCと関連傾向を認めたが,統計学的有意水準には達しなかった(p<0,1). 【結論】地域在住自立高齢者の呼吸機能は,運動機能へは明確な影響を認めなかったが,遂行機能に影響することが示された.従って,高齢者の呼吸機能は,運動機能低下の予測には限界があるが,認知機能低下を予測する指標として有用である可能性が示唆された.
【倫理的配慮、説明と同意】
本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認をうけて実施した(承認番号 2016-G021B).また,全対象者に対して書面および口頭にて,研究目的および内容について説明し,研究参加に関する同意を得た.