[P-17] 重度の摂食嚥下障害を呈した脳血管障害患者に対する理学療法介入が摂食嚥下機能に影響を与えた事例
キーワード:訪問リハビリテーション、摂食嚥下障害、間接嚥下訓練
【はじめに・目的】
訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)にて、偽性球麻痺による摂食嚥下障害を呈した事例を経験した。摂食嚥下リハビリテーションにおける理学療法士(以下PT)の役割は、言語聴覚士(以下ST)による直接嚥下練習の効果を高め、誤嚥の予防や誤嚥物の排出除去を支援することであると考えられる。今回の摂食嚥下障害を呈した事例に対し、嚥下運動の促進・強化、嚥下運動阻害因子の軽減・除去を目標とした理学療法介入を行い、その治療効果について考察した。
【方法】
症例はX年5月に両内頚動脈および脳底動脈閉塞症による脳梗塞(閉じ込め症候群)を発症し、四肢麻痺、嚥下障害、構音障害を有した60歳代男性である。重度意識障害と経口摂取困難により気管切開と胃瘻造設となった。同年7月にリハビリ目的で当院に転院し、X+2年1月に自宅退院した。同月よりPTとSTが週1回ずつの頻度で訪問リハを開始した。日常生活動作は全介助レベルであり、自発的な姿勢変換は困難であった。訪問リハ開始時、藤島の摂食嚥下grade4(楽しみとしての摂食は可能)であるも、嚥下反射惹起不良を呈しており、咽頭内での分泌物の貯留と唾液による誤嚥リスクが高い状態であった。同年4月に嚥下内視鏡検査とスピーチカニューレ交換を実施したが、咽頭内の痰と唾液貯留を認め、随意的咳嗽力の低下と発声および有声化が困難であった。理学療法では、喉頭挙上運動の主動作筋である舌骨上筋群に対する筋力増強運動・胸郭可動域運動と呼気トレーニング・頭頸部と座位姿勢のポジショニング・口腔周辺筋群の筋緊張調整を中心とした介入を実施した。
【結果】
訪問リハを開始してから、藤島の摂食嚥下gradeの改善は認められない。しかし、自宅退院後に誤嚥性肺炎を発症せず、舌骨上筋機能グレード(GS grade)が2(重度落下)から4(静止保持)への改善、反復唾液嚥下テストが0回から1回への改善、咬筋および側頭筋の筋緊張改善と自動運動による下顎の引き上げによる閉口が可能となった。
【結論】
本症例は偽性球麻痺症状により、摂食嚥下の口腔期から咽頭期にわたり重度な障害を呈していた。急性期脳血管障害を対象とした先行研究において、経口摂取可否に両側脳病変である偽性球麻痺症状の有無が有意な予測因子として報告されている。しかし、今回の事例のような慢性期かつ在宅環境での偽性球麻痺症状患者の摂食嚥下障害に関する報告は少ない。本事例から、PTによる間接嚥下訓練によって、慢性期での両側脳病変患者の摂食嚥下機能に有効な治療効果を与えることが可能だと考えられる。
【倫理的配慮、説明と同意】
本報告に際してヘルシンキ宣言の理念に基づき、対象者および家族介護者に対して発表の主旨や個人を特定できないよう配慮することを口頭と紙面にて説明を行い、同意を得た。
訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)にて、偽性球麻痺による摂食嚥下障害を呈した事例を経験した。摂食嚥下リハビリテーションにおける理学療法士(以下PT)の役割は、言語聴覚士(以下ST)による直接嚥下練習の効果を高め、誤嚥の予防や誤嚥物の排出除去を支援することであると考えられる。今回の摂食嚥下障害を呈した事例に対し、嚥下運動の促進・強化、嚥下運動阻害因子の軽減・除去を目標とした理学療法介入を行い、その治療効果について考察した。
【方法】
症例はX年5月に両内頚動脈および脳底動脈閉塞症による脳梗塞(閉じ込め症候群)を発症し、四肢麻痺、嚥下障害、構音障害を有した60歳代男性である。重度意識障害と経口摂取困難により気管切開と胃瘻造設となった。同年7月にリハビリ目的で当院に転院し、X+2年1月に自宅退院した。同月よりPTとSTが週1回ずつの頻度で訪問リハを開始した。日常生活動作は全介助レベルであり、自発的な姿勢変換は困難であった。訪問リハ開始時、藤島の摂食嚥下grade4(楽しみとしての摂食は可能)であるも、嚥下反射惹起不良を呈しており、咽頭内での分泌物の貯留と唾液による誤嚥リスクが高い状態であった。同年4月に嚥下内視鏡検査とスピーチカニューレ交換を実施したが、咽頭内の痰と唾液貯留を認め、随意的咳嗽力の低下と発声および有声化が困難であった。理学療法では、喉頭挙上運動の主動作筋である舌骨上筋群に対する筋力増強運動・胸郭可動域運動と呼気トレーニング・頭頸部と座位姿勢のポジショニング・口腔周辺筋群の筋緊張調整を中心とした介入を実施した。
【結果】
訪問リハを開始してから、藤島の摂食嚥下gradeの改善は認められない。しかし、自宅退院後に誤嚥性肺炎を発症せず、舌骨上筋機能グレード(GS grade)が2(重度落下)から4(静止保持)への改善、反復唾液嚥下テストが0回から1回への改善、咬筋および側頭筋の筋緊張改善と自動運動による下顎の引き上げによる閉口が可能となった。
【結論】
本症例は偽性球麻痺症状により、摂食嚥下の口腔期から咽頭期にわたり重度な障害を呈していた。急性期脳血管障害を対象とした先行研究において、経口摂取可否に両側脳病変である偽性球麻痺症状の有無が有意な予測因子として報告されている。しかし、今回の事例のような慢性期かつ在宅環境での偽性球麻痺症状患者の摂食嚥下障害に関する報告は少ない。本事例から、PTによる間接嚥下訓練によって、慢性期での両側脳病変患者の摂食嚥下機能に有効な治療効果を与えることが可能だと考えられる。
【倫理的配慮、説明と同意】
本報告に際してヘルシンキ宣言の理念に基づき、対象者および家族介護者に対して発表の主旨や個人を特定できないよう配慮することを口頭と紙面にて説明を行い、同意を得た。