第6回日本地域理学療法学会学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター3

[P] ポスター3

Sun. Dec 15, 2019 12:30 PM - 1:30 PM Poster venue (East Building 3rd floor, D Conference Room)

[P-65] 農業への復職を目指した脊髄損傷の一例
玄関の先にある畑へ

*高階 欣晴1 (1. いわてリハビリテーションセンター)

Keywords:玄関、活動範囲、農業

【はじめに・目的】
農業への復職を目指した脊髄損傷により対麻痺を呈した症例の訪問リハビリに関わった。本人家族共に畑に行きたいというニーズが強くあったが、両手切断既往による重複障害もありADLや歩行に多くの介助を要しニーズと身体能力に大きな隔たりがあった。関わりの中で玄関の出入りが可能となったことを契機に、活動範囲が広がり相乗的に身体機能が向上し復職に繋がったので報告する。
【方法】
症例は70歳代男性。疾患名は脊髄損傷、胸椎6-7化膿性脊椎炎、障害は対麻痺、神経因性膀胱直腸障害。病前は家族で農業を営み、10代からの両手切断の既往はあったがADLは全て自立し、自動車や農機具の運転も可能であった。急性期病院で手術治療後、回復期病院に約5ヶ月入院し、退院時の身体機能は徒手筋力テスト下肢2~3(右>左)。Functional Independent Measureは運動項目56点、認知項目32点で、入浴、排泄時の下衣の上げ下げ、更衣以外は自立した。歩行は両下肢の支持性低下に加えて上肢支持も前腕中心で不十分であったため、歩行車と両側長下肢装具を用いて介助を要し、生活場面では車椅子主体であった。介護度は要介護5となり自宅退院直後から週2回訪問リハビリが開始となった。
【結果】
まずは本人家族のニーズを尊重した上で、その前提となる立位、歩行で下肢体幹を抗重力的に使う活動を多く実施し筋力増強を目指した。2ヶ月後には伝い歩きと段差昇降が装具なしで軽介助となった。そこで玄関の上り框27cmの段差を分割するためコンクリートブロックを設置し、下駄箱に前腕支持した状態での段差昇降を家族と共に強化することで屋外に移動する手段を確立した。その後車椅子ながらも家族と畑に行く機会が増え、農作業はしないものの現場監督の役割とビニールハウス内での立位など自主練習を行うことができた。このような日常的な活動性が増えるにつれ、杖なし歩行が安定し自宅ADLは概ね自立した。約7ヶ月後にはトラクターの乗降や運転も可能となり、農作業への復帰を果たした。現在は家族と共に田植え、稲刈り、野菜の栽培、草取りなど精力的に行っている。
【結論】
当初は本人家族のニーズを尊重しつつモチベーションを保つためにも段階的に目標を立てリハビリを行っていく必要があった。その中で玄関の出入り動作を獲得したことで、屋外や畑への障壁が低くなり、ニーズがより具現化され「また畑で作業できそうだ」という更なるモチベーションの向上へと繋がったと考える。リハビリは週2回だったが、介助が必要でもほぼ毎日畑や屋外に行くなど妻や息子の協力も非常に大きく、生活の中での活動量増加や活動範囲の広がりが身体機能向上を加速させ好循環に繋がったと考える。在宅でのリハビリを行う上で活動と参加の前提となる移動能力と、それを補う環境調整の重要性を再認識するとともに、とりわけ屋内と屋外を結ぶことが対象者の可能性を広げることを学んだ。

【倫理的配慮、説明と同意】
今回の報告にあたり、ご本人及びご家族に発表の趣旨、個人情報への配慮について十分な説明を行い、書面にて同意を得ている。