[P-99] 最速歩行と快適歩行及び最低速歩行の各速度比と転倒との関連
最低速歩行速度を測定する意義
Keywords:速度比、転倒、最低速歩行速度
【はじめに・目的】
安定した歩行とは何か。施設では自立歩行しているが、自宅で転倒を繰り返している利用者はよくみられる。自宅ではより実用的な歩行が必要であり、目的に応じた歩き方(自在性)が必要とされる。それには、最速から最低速という速度の幅が必要であり、その幅の中で快適な速度が選択されるべきと考えるが、速度幅と転倒に関する研究は少ない。今回の研究は、最速歩行速度(Fastest Walking Speed:以下FWS)、快適歩行速度(Comfortable Walking Speed:以下CWS)に加え、最低速歩行速度(Lowest Walking Speed:以下LWS)を計測し、速度の幅として各速度の比を求め、転倒との関連を検証することを目的とした。
【方法】
当施設の通所リハビリステーションに通う、施設内歩行の見守りを必要としない66名のうち、重度の認知症を有さないMMSE22点以上の54名(平均年齢81.9±6.5歳、男性16名、女性38名)を対象とした。評価項目は、5m歩行テスト(FWS、CWS、LWS)で速度比を算出し、Time Up Go(以下TUG)、Gibsonの転倒定義に基づいて過去1年の転倒歴の聴取とした。転倒群26名(平均年齢81.2±6.8歳、男性9名、女性17名)、非転倒群28名(平均年齢82.1±6.2歳、男性7名、女性21名)の2群に分け比較検定を行った後、転倒・非転倒を従属変数、有意差の見られた因子を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。なお有意水準は0.05未満とした。
【結果】
FWS/LWS比(転倒群平均値3.07±1.66、非転倒群平均値5.04±2.44)、CWS/LWS比(転倒群平均値2.40±1.34、非転倒群平均値3.71±1.87)において、いずれも非転倒群に有意に大きな速度比を示した(p<0.01)。その他に、TUG、FWS、LWSにおいても2群間に有意差を認め、これら5項目を独立変数としたロジスティック回帰分析においては、FWS/LWS比のみ有意な独立因子として抽出された。
【考察】
本研究の結果、FWS/LWS比が転倒との関連があることが示唆された。自在性のある歩行とは、目的や環境に応じて歩行速度を調節できることであり、その速度幅は重要であるといえる。しかし、転倒群ではその比は有意に小さくなっており、生活場面において選択される歩行速度の幅は狭くなっている状態と考えられる。特にCWS/LWS比では2群間に有意差を認め、FWS/CWS比では有意差を認めなかったことから、LWS側の制御が難しくなっていると考えられる。このことから、環境や課題によりゆっくり歩行せざるを得ない際に転倒リスクが高まることが考えられる。本研究の限界として、転倒の調査を後ろ向きで行っていること、対象者数が少ないことが挙げられるが、転倒予測をするためのスクリーニング法となりうる可能性があり、今後もデータ収集を継続し、前向きな研究を行っていくことが必要である。
【倫理的配慮、説明と同意】
すべての対象者に対し研究目的と方法を説明し同意を得た上で実施した。
安定した歩行とは何か。施設では自立歩行しているが、自宅で転倒を繰り返している利用者はよくみられる。自宅ではより実用的な歩行が必要であり、目的に応じた歩き方(自在性)が必要とされる。それには、最速から最低速という速度の幅が必要であり、その幅の中で快適な速度が選択されるべきと考えるが、速度幅と転倒に関する研究は少ない。今回の研究は、最速歩行速度(Fastest Walking Speed:以下FWS)、快適歩行速度(Comfortable Walking Speed:以下CWS)に加え、最低速歩行速度(Lowest Walking Speed:以下LWS)を計測し、速度の幅として各速度の比を求め、転倒との関連を検証することを目的とした。
【方法】
当施設の通所リハビリステーションに通う、施設内歩行の見守りを必要としない66名のうち、重度の認知症を有さないMMSE22点以上の54名(平均年齢81.9±6.5歳、男性16名、女性38名)を対象とした。評価項目は、5m歩行テスト(FWS、CWS、LWS)で速度比を算出し、Time Up Go(以下TUG)、Gibsonの転倒定義に基づいて過去1年の転倒歴の聴取とした。転倒群26名(平均年齢81.2±6.8歳、男性9名、女性17名)、非転倒群28名(平均年齢82.1±6.2歳、男性7名、女性21名)の2群に分け比較検定を行った後、転倒・非転倒を従属変数、有意差の見られた因子を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。なお有意水準は0.05未満とした。
【結果】
FWS/LWS比(転倒群平均値3.07±1.66、非転倒群平均値5.04±2.44)、CWS/LWS比(転倒群平均値2.40±1.34、非転倒群平均値3.71±1.87)において、いずれも非転倒群に有意に大きな速度比を示した(p<0.01)。その他に、TUG、FWS、LWSにおいても2群間に有意差を認め、これら5項目を独立変数としたロジスティック回帰分析においては、FWS/LWS比のみ有意な独立因子として抽出された。
【考察】
本研究の結果、FWS/LWS比が転倒との関連があることが示唆された。自在性のある歩行とは、目的や環境に応じて歩行速度を調節できることであり、その速度幅は重要であるといえる。しかし、転倒群ではその比は有意に小さくなっており、生活場面において選択される歩行速度の幅は狭くなっている状態と考えられる。特にCWS/LWS比では2群間に有意差を認め、FWS/CWS比では有意差を認めなかったことから、LWS側の制御が難しくなっていると考えられる。このことから、環境や課題によりゆっくり歩行せざるを得ない際に転倒リスクが高まることが考えられる。本研究の限界として、転倒の調査を後ろ向きで行っていること、対象者数が少ないことが挙げられるが、転倒予測をするためのスクリーニング法となりうる可能性があり、今後もデータ収集を継続し、前向きな研究を行っていくことが必要である。
【倫理的配慮、説明と同意】
すべての対象者に対し研究目的と方法を説明し同意を得た上で実施した。