会長挨拶
伝統ある日本血管外科学会の第42回学術総会をお世話させていただくことを大変光栄に存じます。今回の学術集会のテーマは「Partnership –ともに歩む血管外科」、サブテーマとして「情熱・経験・エビデンス」とさせていただきました。血管外科手術の最近の進歩は著しく、大動脈外科領域ではステントグラフトの応用範囲がどんどん広がり、これによって手術体系が大きく変化しました。腹部大動脈瘤や胸部大動脈瘤では血管内治療による低侵襲手術が一般化し、これに刺激されて開腹手術も小切開で行われるようになりました。末梢血管外科領域でも血管内治療の応用により、以前はさかんに行われた腸骨動脈領域のバイパス手術はすっかり姿を消し、ほとんど血管内治療にとってかわられました。一方で上行大動脈から弓部大動脈、胸腹部大動脈領域の大動脈瘤の治療は、open surgeryが主体で、この領域での侵襲を少なくし、合併症を低減する努力はまだまだ必要です。末梢血管領域でも重症虚血趾に対する膝下バイパスの成績は改善が著しく、治療成績の向上が見られていますが、これには手術後手技の改善だけでなく、遠隔期の追跡を医療従事者が力をあわせて行い2次開存率の向上に努めている結果だと思います。「ヒトは血管とともに老いる」といわれ、動脈硬化性血管病は全身疾患であり、高齢者に対する血管外科手術は、虚血性心疾患、腎機能障害、脳血管障害など、他部位の動脈硬化性病変に対しても配慮を行いながら治療を行わなければなりません。このため、血管疾患に対する治療は、患者さんを中心にさまざまな診療科、医療職が協力をして治療にあたる必要があります。患者—医師間のパートナーシップの重要性が増しているとともに、医療従事者間のパートナーシップの重要性も増していると思います。
私が医師になってからの30数年間の進歩を支えたのは、血管外科医の燃えるような情熱に基づいた試行錯誤の結果です。この間に消えていった手術もあれば、見直されてreviveしてきた手術もあります。熱く大きな期待をもって登場した新しい治療も、臨床応用で行き詰まっているものもあります。それにもめげずに、血管外科医が確実でより低侵襲な治療の開発を目指して実験を繰り返し、新しい材料や器械を開発してきたことが今日の血管外科の低侵襲治療につながってきています。進歩著しい最近の10年間に蓄積してきた経験を、新たなエビデンスとして共有してゆくことが学術集会の目的と考え、サブテーマとして情熱・経験・エビデンスを掲げさせていただきました。是非とも活発な御討論をお願い申し上げます。
さて、5月末の青森は、山々の雪がようやく消え、新緑が目にまぶしい季節になります。少し足を伸ばしていただければ、十和田湖の湖面に映る新緑の山々、奥入瀬渓谷の清流、十二湖の神秘的なたたずまい、白神山地の手つかずの自然、各地に点在する温泉など、普段の忙しい臨床の日常から離れ、心休まる自然にたっぷりと触れることができます。地元の熱い祭りである、ねぶた祭りを実際に体験できる施設や、青森県立美術館の棟方志功の版画・シャガールのアレコの舞台画・三内丸山遺跡もみものです。食材も豊富で、さまざまな海の幸山の幸を味わっていただくことができます。学会の合間に、青森の自然と文化に触れていただければ幸いです。
はるばる青森までおいでいただくのは恐縮ですが、できるだけ沢山の会員の皆様にお越しいただき、楽しんでもらうために教室員一同力をあわせて準備をすすめております。皆様のお越しを心からお待ち申し上げております。
胸部心臓血管外科学講座
教授 福田幾夫