第44回 川崎医療生活協同組合 活動交流集会

記念講演

記念講演


 

「地域みんなで健康を作ろう!」

 川崎セツルメント診療所 医師
       弓野 綾 先生


川崎医療生協の皆さま、お久しぶりです!
川崎協同病院で2007年から研修医として学び、そのあと久地診療所で家庭医として勤務していました弓野綾です。仕事中の出会いをきっかけに、川崎で無料在日外国人健康相談会や路上生活者訪問のボランティアに参加したことが始まりで、2015年から2018年まで、NGO職員としてタンザニアのタボラ地方の医療機関で活動していました。地方の病院ではよくある病気(主にマラリア・下痢症・HIVなどの感染症) の診療の支援をし、また生活習慣病が増えているのにケアする外来がなかったので立ち上げました。保健事務所では、管轄する法人内の10の病院・診療所の診療統計作成や、巡回視察を支援しました。
タボラでの活動で、川崎でも感じていた「健康の社会的決定要因(SDH)」の重要さを感じて、2018年-2019年は、イギリスはロンドンの大学院に社会疫学の勉強に行きました。社会疫学というのは、誰かの今までの人生のいろいろな要素(例えばどんな国のどんな家族の元に生まれたか、どんな教育を受けたか、どんな仕事をしているか、どんな生活習慣があるか、どんな住宅環境に住んでいるか)、総じて「健康の社会的決定要因」と呼ばれる事柄が、どれだけその人の健康状態(例えば、要介護になる年齢や、寿命、心臓病を起こす確率など)に関わってくるかを研究する学問でした。社会疫学を学び、「どうして、同じ人間でもこれだけ病気や寿命などに差がついてしまうのだろう?」という「差がつく過程」についての疑問にはある程度答えが見えているのだなと思いました。
しかし、帰国後コロナ禍が人の健康に直接的・間接的に及ぼす影響を経験して、「では、どうすればその健康格差が良くなるのか?」というところには、根拠のある解決策がなかなか見出されていなかったり、見出されていても、その解決策を政府が採用するとは限らないというところで、難しい問題だと改めて感じています。一つの希望として、イギリスでは、人との繋がりがある人の方が、学歴や収入の影響をのぞいても、より健康でいられるということを学びました。コロナ禍で接触と移動が難しくなる中、医療生協の組合員さんたち、スタッフの人たちが互いの繋がりを保つために色々やってきた取り組みは、それぞれが健康でい続けるためにも大切なことだと思います。ぜひ今後も続けて欲しいです。