10:35 AM - 11:35 AM
[BL-3] MRIの実験用ファントム
実験しようと考える時,または実験しなければならない時とはどんなときだろうか?いろいろな状況が考えられる.
最も身近な実験では,従来使用していたパラメータを少し変更して,撮像した画像を確認する場合である.また,MR装置を更新した時,前装置のシーケンスと同様なシーケンスがある場合や,さらに,異なるベンダーの場合,同じシーケンスがないことも考えられ,その場合には,どのような画像を得られるのか,確認しなければならない.
この場合,撮像対象を一定にしておかなければ,信号の変化や画像の変化を比較できない.ボランティアを依頼して撮像するのも一つの手であるが,いくつものパラメータを検証や,時間のかかる撮像などとなると倫理的にも問題が生じる.また,ある疾患を対象としたシーケンスの場合,その疾患が依頼されるのを待っていなければならず,さらに,その患者さんにいくつものパラメータを検証するために協力をお願いすることは,ボランティア以上に倫理的な問題が生じる.
ファントムを撮像対象として用いることによって,撮像対象を一定にすることができる.対象をある疾患を対象とした場合でも,その疾患の模擬的なファントムを作成することによって,依頼を待つことなく,また,時間の制約なしに検証することが可能となる.
MRIのファントムの場合,susceptibility(物質が磁化される能力,磁界に歪みを与える能力)がないこと以外に,MR信号を取得できれば問題ないが,ファントムを研究に用いるためにはいくつかの制約がある.
第一に,追試が可能なバラツキのない材質を用いなければならない.例えば,果物のオレンジや野菜のキャベツでもMRI信号を取得することが可能だが,個体によって含まれる水分量や葉っぱの重なりが異なる.また,購入する地方によって産地が異なり,バラツキが大きいため同じ信号や結果が得られない.このように「どこで」「いつ」追試をしたとしても同じ信号や結果を得られるように,ファントムにバラツキがないことが必要となる.
第二に,ある程度の時間,信号が変化しない材質を用いなければならない.いくつものパラメータやシーケンスを変えて実験するにはある程度の時間が必要で日をまたぐことも考えられる.この間にファントムから得られるMR信号が変化してしまうことで,比較することが不可能になる.
第三に目的にあったファントムのデザインが必要である.デザインを決定する上で重要なことは大きさとその構造である.大きさは目的とする実験で使用するコイルと撮像FOVによって決められる.コイルに対しファントムが小さいと試料を認識しないことや,FOVが小さくSNRが不足することも考えられる.一方,臨床目的で使用するFOVに対しファントムが大きい場合,折り返しアーチファクト対策などのパラメータ変更が必要となり,ファントム実験と臨床研究の結果に差が生じることとなる.ファントムの大きさはおおよそ撮像FOVの80%程度となるように決定するのがよいと考える.MRIでは様々なアーチファクトは空気が原因となって発生することが多い.安定した測定には試料周囲を寒天や液体で固定する必要がある.また,ファントムの置き方も重要である.撮像断面をオブリークにすると傾斜磁場グラジエントに負荷がかかり,最短TEの延長などが起こる可能性がある.
一般的にベンダーから装置に付属するファントムは,硫酸銅水溶液を封入した密閉ファントムである.これは,均一性やSNRなど日常の装置のチェックに用いられる.また,スライス厚,歪みのチェックができる市販のものもある.組織や疾患のMR信号を得る目的では,寒天(アガロース,カラギーナン)や希釈したGd造影剤を用いた自作ファントムを作成することが多い.
MR信号はフーリエ変換された空間周波数領域の信号であるため絶対値ではない.MRにおいて絶対値を示すのは組織の緩和時間である.このため,自作ファントムではT1緩和時間とT2緩和時間を調整することによって,目的とする組織の信号を得られるファントムを作成することができる.目的とする組織や疾患のT1およびT2緩和時間は文献などから得られる. T1緩和時間を調整するためには,T1緩和時間の長い水にGd造影剤を加えることでT1緩和時間を短縮できる.一方,T2緩和時間の調整には水に溶かしたアガロースやカラギーナンの量を増減することにより調整できる.
自作ファントムにおいて最大の問題は作成方法である.アガロースやカラギーナンを希釈したGd造影剤で溶かす際の火加減でムラが発生したり,容器に移す際に気泡が混入したりする.また,計画通りに作成できないことが多い.
ファントム作成は作成してみて失敗に学ぶことが大きい.まずは作ってみることが最大の成功の鍵であると考える.
最も身近な実験では,従来使用していたパラメータを少し変更して,撮像した画像を確認する場合である.また,MR装置を更新した時,前装置のシーケンスと同様なシーケンスがある場合や,さらに,異なるベンダーの場合,同じシーケンスがないことも考えられ,その場合には,どのような画像を得られるのか,確認しなければならない.
この場合,撮像対象を一定にしておかなければ,信号の変化や画像の変化を比較できない.ボランティアを依頼して撮像するのも一つの手であるが,いくつものパラメータを検証や,時間のかかる撮像などとなると倫理的にも問題が生じる.また,ある疾患を対象としたシーケンスの場合,その疾患が依頼されるのを待っていなければならず,さらに,その患者さんにいくつものパラメータを検証するために協力をお願いすることは,ボランティア以上に倫理的な問題が生じる.
ファントムを撮像対象として用いることによって,撮像対象を一定にすることができる.対象をある疾患を対象とした場合でも,その疾患の模擬的なファントムを作成することによって,依頼を待つことなく,また,時間の制約なしに検証することが可能となる.
MRIのファントムの場合,susceptibility(物質が磁化される能力,磁界に歪みを与える能力)がないこと以外に,MR信号を取得できれば問題ないが,ファントムを研究に用いるためにはいくつかの制約がある.
第一に,追試が可能なバラツキのない材質を用いなければならない.例えば,果物のオレンジや野菜のキャベツでもMRI信号を取得することが可能だが,個体によって含まれる水分量や葉っぱの重なりが異なる.また,購入する地方によって産地が異なり,バラツキが大きいため同じ信号や結果が得られない.このように「どこで」「いつ」追試をしたとしても同じ信号や結果を得られるように,ファントムにバラツキがないことが必要となる.
第二に,ある程度の時間,信号が変化しない材質を用いなければならない.いくつものパラメータやシーケンスを変えて実験するにはある程度の時間が必要で日をまたぐことも考えられる.この間にファントムから得られるMR信号が変化してしまうことで,比較することが不可能になる.
第三に目的にあったファントムのデザインが必要である.デザインを決定する上で重要なことは大きさとその構造である.大きさは目的とする実験で使用するコイルと撮像FOVによって決められる.コイルに対しファントムが小さいと試料を認識しないことや,FOVが小さくSNRが不足することも考えられる.一方,臨床目的で使用するFOVに対しファントムが大きい場合,折り返しアーチファクト対策などのパラメータ変更が必要となり,ファントム実験と臨床研究の結果に差が生じることとなる.ファントムの大きさはおおよそ撮像FOVの80%程度となるように決定するのがよいと考える.MRIでは様々なアーチファクトは空気が原因となって発生することが多い.安定した測定には試料周囲を寒天や液体で固定する必要がある.また,ファントムの置き方も重要である.撮像断面をオブリークにすると傾斜磁場グラジエントに負荷がかかり,最短TEの延長などが起こる可能性がある.
一般的にベンダーから装置に付属するファントムは,硫酸銅水溶液を封入した密閉ファントムである.これは,均一性やSNRなど日常の装置のチェックに用いられる.また,スライス厚,歪みのチェックができる市販のものもある.組織や疾患のMR信号を得る目的では,寒天(アガロース,カラギーナン)や希釈したGd造影剤を用いた自作ファントムを作成することが多い.
MR信号はフーリエ変換された空間周波数領域の信号であるため絶対値ではない.MRにおいて絶対値を示すのは組織の緩和時間である.このため,自作ファントムではT1緩和時間とT2緩和時間を調整することによって,目的とする組織の信号を得られるファントムを作成することができる.目的とする組織や疾患のT1およびT2緩和時間は文献などから得られる. T1緩和時間を調整するためには,T1緩和時間の長い水にGd造影剤を加えることでT1緩和時間を短縮できる.一方,T2緩和時間の調整には水に溶かしたアガロースやカラギーナンの量を増減することにより調整できる.
自作ファントムにおいて最大の問題は作成方法である.アガロースやカラギーナンを希釈したGd造影剤で溶かす際の火加減でムラが発生したり,容器に移す際に気泡が混入したりする.また,計画通りに作成できないことが多い.
ファントム作成は作成してみて失敗に学ぶことが大きい.まずは作ってみることが最大の成功の鍵であると考える.