15:20 〜 16:20
[SL-1] 診療放射線技師に求める手術支援 -放射線学的腰椎椎間孔狭窄の診断-
はじめに
腰椎椎間孔狭窄症の診断で最も重要なポイントは,本疾患は比較的稀な臨床病態であるという既存の誤った固定観念を払拭することである.われわれの調査では腰部神経根症を呈する腰部脊柱管狭窄症手術例の13.2%に腰椎椎間孔狭窄症を有していたことが判明している1).この臨床的事実は,腰椎椎間孔狭窄症は決して稀な病態ではなく,日常臨床で比較的よく遭遇する病態であることを意味する.腰椎椎間孔狭窄症の見落としや認識不足はMOB(multiply operated back)やFBSS(failed back surgery syndrome)に直結する2).従来,腰椎椎間孔狭窄症は,画像診断が困難な部位とされてきたが,近年登場した3次元画像診断処理技術の進歩によって,その診断精度は飛躍的に改善され,誰でも容易に病態認識が可能となっている.本講演では3次元MRIにおける放射線学的腰椎椎間孔狭窄の画像診断の要点について述べる.
3次元MRIにおける画像診断
3次元MRIで示される放射線学的腰椎椎間孔狭窄の画像診断上の特徴は以下に述べる4つのパターンに集約される3).すなわち,1.神経根・脊髄神経の横走化,2.後根神経節の形態の不明瞭化,3.脊髄神経の絞扼,4.浮腫性腫脹,である(附図1-A,B,C,D).通常,硬膜管から分岐した神経根は脊柱管内から椎間孔外領域へかけて椎間孔部を基点とするゆるやかなS字状のカーブを描き前下方へと走行する.椎弓根レベルにおいて椎間板高位に平行に椎間孔内を横走するものは異常である.これは後方へ発達した椎体の骨棘や膨隆した椎間板組織により神経組織が中枢へ押し上げられることで生じる像で,腰椎椎間孔狭窄の共通の基本的異常画像となる.過去においてpedicular kinkingと表現された病態であり,いわゆるup-down stenosisに相当する(附図1-A).椎間孔内狭窄においては後根神経節の形態に注目する.通常,後根神経節は椎間孔近傍に位置し,紡錐形を呈しており,脊髄神経根や脊髄神経とは明瞭に区別される.よって,椎間孔内において後根神経節の形態が不明瞭になっているということは同部における全周性の狭窄の存在を示唆する所見である(附図1-B).今まで最も診断が困難であった椎間孔外における狭窄症,いわゆるFar-out syndrome4)も3次元MRIを用いると診断が飛躍的に容易となる.後根神経節の形状が明瞭に判読できるにもかかわらず,脊髄神経の横走化がみられ,仙骨翼の部位に一致して神経組織の絞扼像がみられれば診断可能である.L5椎体の後方骨棘とL5/S1の椎間板が神経組織に食い込むように描出され,同レベルより末梢で鋭角に脊髄神経が腹側へと走行していくのが特徴である(附図1-C).椎間孔内と異なり,椎間孔外ではfront-back stenosisの神経圧迫形式をとる.画像異常が必ずしも有症状化を意味しないが,浮腫性腫脹を呈していると責任病巣である可能性が高い.外側ヘルニアの時に,この画像異常が認められることが多い(附図1-D).この領域の画像診断のピットフォールとして,ルーチンのMRI矢状断像や軸写像における脂肪減少・消失の有無をチェックすることで放射線学的椎間孔狭窄を診断する手続きは,椎間孔外狭窄には決して有用でないことを十分に認識する必要がある.モニター画面上で3次元画像処理を施して神経の走行に沿った適切な断面を抽出できないと本病態の把握は困難である.
まとめ
3次元画像診断技術の導入は,かつてHidden zone5)と揶揄された腰椎椎間孔狭窄症の画像診断の精度を飛躍的に改善させた.今後は,これらの手法を臨床の場へ積極的に導入することにより手術成績のより一層の向上が期待できる.
文献
1.山田宏、吉田宗人:椎間孔内・外の狭窄ならびに圧迫病変の診断.脊椎脊髄21(4):364-368,2008
2.Burton R,Kirkaldy-Willis W,Yong-Hing K,et al: Causes of failure of surgery on the lumbar spine. Clin. Orthop. 157: 191-197, 1981.
3.山田宏、吉田宗人、木戸義照、玉置哲也:脊髄神経根の3次元MRI.脊椎脊髄ジャーナル,21(2),2008
4.Wiltse LL, Guyer RD, Spencer CW, et al: Alar transverse process impingement of the L5 spinal nerve: The far-out syndrome. Spine 9: 31-41, 1984.
5.MacNab I: Negative disc exploration:An analysis of the causes of nerve root involvement in sixty-eight patients. J. Bone Joint Surg.(Am).53: 891-903, 1971.
ご略歴
山田 宏 (やまだ ひろし)
公立大学法人 和歌山県立医科大学 医学部 整形外科学講座 教授専門分野 脊椎・脊髄外科全般
学歴
昭和63年 和歌山県立医科大学医学部 卒業平成6年 和歌山県立医科大学大学院医学研究科(外科系)修了
学位
平成7年 博士(医学)(和歌山県立医科大学 第甲214号)
免許・資格
昭和63年 医師免許取得 (医籍登録第314338号)
平成7年 日本整形外科学会認定医(第111408号)
平成15年 脊椎脊髄外科指導医(第10322号)
平成23年 脊椎内視鏡下手術・技術認定医(2種・後方手技)(第001094号)
職歴
昭和63年 和歌山県立医科大学 診療医臨床医
平成4年 米国ミネソタ大学 整形外科研究員
平成7年 和歌山県立医科大学 整形外科助手
平成8年 国保橋本市民病院 整形外科副医長
平成10年 和歌山県立医科大学 整形外科助手
平成14年 新宮市立医療センター 整形外科部長
平成17年 和歌山労災病院 整形外科脊椎センター長
平成19年 和歌山県立医科大学 整形外科講師
平成25年 和歌山県立医科大学 整形外科准教授
平成29年 和歌山県立医科大学 整形外科教授
腰椎椎間孔狭窄症の診断で最も重要なポイントは,本疾患は比較的稀な臨床病態であるという既存の誤った固定観念を払拭することである.われわれの調査では腰部神経根症を呈する腰部脊柱管狭窄症手術例の13.2%に腰椎椎間孔狭窄症を有していたことが判明している1).この臨床的事実は,腰椎椎間孔狭窄症は決して稀な病態ではなく,日常臨床で比較的よく遭遇する病態であることを意味する.腰椎椎間孔狭窄症の見落としや認識不足はMOB(multiply operated back)やFBSS(failed back surgery syndrome)に直結する2).従来,腰椎椎間孔狭窄症は,画像診断が困難な部位とされてきたが,近年登場した3次元画像診断処理技術の進歩によって,その診断精度は飛躍的に改善され,誰でも容易に病態認識が可能となっている.本講演では3次元MRIにおける放射線学的腰椎椎間孔狭窄の画像診断の要点について述べる.
3次元MRIにおける画像診断
3次元MRIで示される放射線学的腰椎椎間孔狭窄の画像診断上の特徴は以下に述べる4つのパターンに集約される3).すなわち,1.神経根・脊髄神経の横走化,2.後根神経節の形態の不明瞭化,3.脊髄神経の絞扼,4.浮腫性腫脹,である(附図1-A,B,C,D).通常,硬膜管から分岐した神経根は脊柱管内から椎間孔外領域へかけて椎間孔部を基点とするゆるやかなS字状のカーブを描き前下方へと走行する.椎弓根レベルにおいて椎間板高位に平行に椎間孔内を横走するものは異常である.これは後方へ発達した椎体の骨棘や膨隆した椎間板組織により神経組織が中枢へ押し上げられることで生じる像で,腰椎椎間孔狭窄の共通の基本的異常画像となる.過去においてpedicular kinkingと表現された病態であり,いわゆるup-down stenosisに相当する(附図1-A).椎間孔内狭窄においては後根神経節の形態に注目する.通常,後根神経節は椎間孔近傍に位置し,紡錐形を呈しており,脊髄神経根や脊髄神経とは明瞭に区別される.よって,椎間孔内において後根神経節の形態が不明瞭になっているということは同部における全周性の狭窄の存在を示唆する所見である(附図1-B).今まで最も診断が困難であった椎間孔外における狭窄症,いわゆるFar-out syndrome4)も3次元MRIを用いると診断が飛躍的に容易となる.後根神経節の形状が明瞭に判読できるにもかかわらず,脊髄神経の横走化がみられ,仙骨翼の部位に一致して神経組織の絞扼像がみられれば診断可能である.L5椎体の後方骨棘とL5/S1の椎間板が神経組織に食い込むように描出され,同レベルより末梢で鋭角に脊髄神経が腹側へと走行していくのが特徴である(附図1-C).椎間孔内と異なり,椎間孔外ではfront-back stenosisの神経圧迫形式をとる.画像異常が必ずしも有症状化を意味しないが,浮腫性腫脹を呈していると責任病巣である可能性が高い.外側ヘルニアの時に,この画像異常が認められることが多い(附図1-D).この領域の画像診断のピットフォールとして,ルーチンのMRI矢状断像や軸写像における脂肪減少・消失の有無をチェックすることで放射線学的椎間孔狭窄を診断する手続きは,椎間孔外狭窄には決して有用でないことを十分に認識する必要がある.モニター画面上で3次元画像処理を施して神経の走行に沿った適切な断面を抽出できないと本病態の把握は困難である.
まとめ
3次元画像診断技術の導入は,かつてHidden zone5)と揶揄された腰椎椎間孔狭窄症の画像診断の精度を飛躍的に改善させた.今後は,これらの手法を臨床の場へ積極的に導入することにより手術成績のより一層の向上が期待できる.
文献
1.山田宏、吉田宗人:椎間孔内・外の狭窄ならびに圧迫病変の診断.脊椎脊髄21(4):364-368,2008
2.Burton R,Kirkaldy-Willis W,Yong-Hing K,et al: Causes of failure of surgery on the lumbar spine. Clin. Orthop. 157: 191-197, 1981.
3.山田宏、吉田宗人、木戸義照、玉置哲也:脊髄神経根の3次元MRI.脊椎脊髄ジャーナル,21(2),2008
4.Wiltse LL, Guyer RD, Spencer CW, et al: Alar transverse process impingement of the L5 spinal nerve: The far-out syndrome. Spine 9: 31-41, 1984.
5.MacNab I: Negative disc exploration:An analysis of the causes of nerve root involvement in sixty-eight patients. J. Bone Joint Surg.(Am).53: 891-903, 1971.
ご略歴
山田 宏 (やまだ ひろし)
公立大学法人 和歌山県立医科大学 医学部 整形外科学講座 教授専門分野 脊椎・脊髄外科全般
学歴
昭和63年 和歌山県立医科大学医学部 卒業平成6年 和歌山県立医科大学大学院医学研究科(外科系)修了
学位
平成7年 博士(医学)(和歌山県立医科大学 第甲214号)
免許・資格
昭和63年 医師免許取得 (医籍登録第314338号)
平成7年 日本整形外科学会認定医(第111408号)
平成15年 脊椎脊髄外科指導医(第10322号)
平成23年 脊椎内視鏡下手術・技術認定医(2種・後方手技)(第001094号)
職歴
昭和63年 和歌山県立医科大学 診療医臨床医
平成4年 米国ミネソタ大学 整形外科研究員
平成7年 和歌山県立医科大学 整形外科助手
平成8年 国保橋本市民病院 整形外科副医長
平成10年 和歌山県立医科大学 整形外科助手
平成14年 新宮市立医療センター 整形外科部長
平成17年 和歌山労災病院 整形外科脊椎センター長
平成19年 和歌山県立医科大学 整形外科講師
平成25年 和歌山県立医科大学 整形外科准教授
平成29年 和歌山県立医科大学 整形外科教授