[PS01-30] 温度上昇下で殺虫剤が水域生態系に与えるトップダウン効果の検証
農薬は水域生態系に甚大な影響を与える。さらに、今後は温暖化との複合影響としてより複雑に影響する可能性も懸念されている。温暖化下での農薬の適正利用策を検討するにあたり、複合影響メカニズムの理解は欠かせない。演者らはこれまでに、殺虫剤曝露がトンボ幼虫（ヤゴ）を減少させる一方、餌資源となり得るマキガイを増加させるとの事象を明らかにし、これがトップダウン（TD）効果によるものと考えてきた。しかし、殺虫剤を構成する物質が栄養塩として作用し、逆にボトムアップ（BU）効果が強く表れた可能性も否定できない。そこで、本研究では殺虫剤と温度上昇の複合影響メカニズムとしてTD効果がどの程度関与するのかを操作実験から検証した。小型水槽に組成を均一にした水域生態系を創出し、殺虫剤・水温上昇・捕食者導入（ヤゴ）の有無を操作した2×2×2の要因実験（各8反復）を行った。ヤゴ導入区では捕食圧とみられるマキガイの減少傾向がみられた。一方、殺虫剤処理ではマキガイが増加する傾向にあったが、この現象はヤゴ導入の有無を問わず見られた。また、これらの傾向は水温上昇下ほど顕在化した。つまり、殺虫剤曝露によるマキガイ増加のメカニズムとして、TD効果だけではなく、実はBU効果の関与も大きい可能性が示唆された。