第60回日本小児神経学会学術集会

セッション情報

シンポジウム

[SY6] シンポジウム6
小児神経疾患への遺伝子・細胞治療臨床応用

2018年5月31日(木) 13:30 〜 15:30 第5会場 (3F 302)

座長:齋藤伸治(名古屋市立大学大学院医学研究科新生児・小児医学分野)、山形崇倫(自治医科大学小児科)

【企画・趣旨のねらい】
 遺伝学的解析技術の進歩により,小児神経分野でも多くの疾患の病因遺伝子が同定され,病態が明らかにされてきている.それに伴い,治療不可能と考えられていた難治性小児神経疾患に対する治療法開発が進められ,一部では臨床応用が始まっている.これまで,先天代謝異常症に対する食事療法,病態に応じた薬物治療,骨髄移植や肝移植,酵素補充療法,アンチセンスオリゴヌクレオチド治療,遺伝子治療,細胞治療など多様な治療法が開発され,臨床応用が始まっている.遺伝子治療は,疾患遺伝子をウィルスなどのベクターに組み込み,細胞内に導入して遺伝子を発現させ治療する方法である.幹細胞などを体外に取り出し,レンチウィルスベクターにより遺伝子を染色体に組み込み,体内に戻すin vitro法で,副腎白質ジストロフィーなどの治療法が欧米で開発され,治療効果が得られ,治験に進んでいる.一方,アデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを用い,遺伝子を体内に直接導入するin vivo法の進歩も目覚ましく,世界的にも,ライソゾーム病,Parkinson病や脊髄性筋萎縮症など,多くの疾患に対して治療法が開発されている.
 本シンポジウムは,遺伝子治療・細胞治療に焦点を当てる.AAVベクターを用いて治療効果が得られているAADC欠損症,治療法開発研究が進んでいるGLUT1欠損症やAngelman症候群を例に,今後の治療法開発と臨床応用に向けた取り組みを進めるための検討をしたい.また,遺伝子治療法の一つとして,変異した遺伝子を切り取り正常な遺伝子に組み替えるゲノム編集技術を用いた治療法の開発も進められている.小児神経疾患での開発はまだであるが,肝細胞をターゲットとした血友病のゲノム編集技術開発を例に,先天代謝異常症などでの治療法開発研究の可能性を探る.さらに,iPS細胞や各種幹細胞を用いた細胞治療のこれまでの成果と今後の方向性について総括し,小児神経疾患への応用について考えたい.
 遺伝子・細胞治療は,これまで治療が不可能と考えられていた神経疾患に治療の可能性を開く,期待が大きい治療法であるが,どの様な経路で治療するかなど,治療戦略で検討しなければならない課題も多い.各治療法の基礎知識を学び,小児神経疾患に対する治療法開発の共同研究の促進を期待したい.