第34回大阪府理学療法学術大会

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Olal session

事前公開

[O-09] 一般演題(神経筋・脊髄①)

Sun. Jul 3, 2022 2:10 PM - 3:10 PM 会場4 (10階 1009会議室)

座長:加藤 直樹(大阪大学医学部附属病院)

2:10 PM - 2:20 PM

[O-09-1] 感染性右総腸骨動脈瘤破裂後の大腰筋内血種により広範囲での末梢神経麻痺を呈した一症例

辻井 健太郎1, 貴志 悠矢1, 大野 直紀1, 鎌田 洸哉2, 小野 秀文3 (1.地方独立行政法人 りんくう総合医療センターリハビリテーション技術科, 2.地方独立行政法人 りんくう総合医療センター放射線技術科, 3.地方独立行政法人 りんくう総合医療センターリハビリテーション科)

Keywords:総腸骨動脈瘤破裂、末梢神経麻痺

【症例紹介】
症例は70歳代、ADL自立の女性。X年Y月Z日より嘔気を主訴に菌血症、小腸イレウスにて入院となった。Z+8日に右総腸骨動脈瘤(以下CIA)が判明し、Z+10日にCIA拡大と下大静脈狭窄、両下肢にDVTを発症し抗血液凝固剤が開始されたが、Z+12日にCIA切迫性破裂により緊急手術となった。手術所見は内腸骨動脈(以下ILL)を結紮、外腸骨動脈(以下EIL)は人工血管置換術を施行した。CIA破裂後から大腿神経(以下FN)、閉鎖神経(以下ON)、大腿外側皮神経(以下LFCN)、上殿神経(以下SGN)領域の神経麻痺を認めた。
【評価とリーズニング】
CIA破裂後に右大腰筋内血腫が生じたためCTにてL4・5レベル大腰筋の筋横断面積をCIA破裂前後で比較したところ318.1%の拡大を認めた。Z+17日にはFIMは運動項目21点(移乗1点)、MMT(右/左)は股関節屈曲2/3、伸展3/3、外転1/3、内転2/3、膝関節伸展1/3、屈曲3/3、足関節背屈4/4、底屈2/2、触圧覚はFN・ON・LFCN領域で0/10、その他の領域は正常であった。以上から右大腰筋内血腫により腰神経叢への機械的圧迫が生じ、支配領域の麻痺症状とそれに伴うADLの低下が生じたと推察された。
【介入と結果】
筋力低下に対する介入の選択はDVTに対して禁忌の機能的電気刺激は除外した。MMT1レベルで選択的収縮が困難のためCKCによる等尺性収縮を用いた筋力強化とストレッチを併せて実施した。安静度はZ+36日から起立着座動作練習まで許可されたが、イレウス起因の嘔吐症状にて積極的な介入は困難であった。介入結果(Z+50日)は右大腰筋の筋横断面積はCIA破裂前と比較して151.3%となり破裂直後に対して減少を認めた。さらに筋萎縮の変化をCIA破裂前と比較した結果、大腿直筋(右/左)60.1%/83.4%、中殿筋69.0%/71.4%、大殿筋85.3%/93.0%と全体的に減少したが、特に右大腿直筋の筋萎縮が著明であった。MMTは右股関節外転、膝関節伸展が2、触圧覚はFN、ON領域で1/10と僅かな改善であるが、LFCN領域では10/10と著明に改善した。FIMの運動項目は23点(移乗: 3点)に改善した。
【結論】
血腫起因の機械的圧迫によるFN麻痺の報告は複数あるが、広範囲での末梢神経障害の報告がなく、希少な症例を経験した。今回生じた血腫は大腰筋内・後方を走行するFN、ON、SGNとの解剖学的位置より血腫の影響が残存し、特に右大腿直筋の筋萎縮が著明であるため機械的圧迫によるFNへの影響は強いと考えた。またLFCNは高位で分枝し外側方向に走行するため、LFCNの感覚機能の改善は血腫縮小による改善と考えられた。IILの結紮後は上・下殿動脈への血流障害による中殿筋の筋力低下が生じるが、側副路により筋力低下は改善すると報告されていることから血行障害による影響が示唆された(工藤, 2019)。今回の経験から血腫の経時的変化と理学所見・画像所見を解剖学的な解釈による病態把握と、その神経性・廃用性筋力低下の予防的介入は重要であると考えられた。