3:39 PM - 3:51 PM
[P-03-3] バリント症候群と観念失行によってセルフケア動作の獲得に難渋した一症例 ~自宅退院に向けた機能適応手段の検討~
Keywords:バリント症候群、観念失行
【症例紹介】
バリント症候群は精神性注視麻痺、視覚性注意障害、視覚性運動失調の3兆候からなる(Balint R、1909)。今回、上記に加え、観念失行を呈した症例を担当する機会を得た。
症例は60歳代女性、夫・息子との三人暮らし、日中独居であった。X年、脳動静脈奇形破裂による左後頭葉の出血の後、右側頭葉~後頭葉にかけて広範囲の梗塞を認め、開頭血腫除去術を施行された。急性期病院で30日間の入院加療後、当院の回復期病棟へ転院の運びとなった。
【評価とリーズニング】
初期評価時(入院第3病日)、FIM:55点(整容・更衣:4点)、Fugl-Meyer assessment:下肢合計34点・上肢合計60点、Brs:下肢・手指・上肢Ⅵ、感覚:正常(表在・固有)、鼻指鼻試験:正常、Berg Balance Scale:51点、10m歩行試験:11秒15歩と運動機能は概ね良好であった。一方、Mini Mental State Examination(MMSE):7点、標準失語症検査(SLTA)は、聴理解は単語レベル、状況判断及び従命は可能、標準高次動作性検査(SPTA)は、習慣的動作は口頭指示・模倣は可能であったが、物品操作時に錯行為と保続が生じ、観念失行と判断した。セルフケア動作は、観念失行の影響で歯磨き粉の蓋開閉が出来ない、服の着方が分からない場面を認め、精神性注視麻痺、視覚性注意障害の影響で水栓の場所を探せない、服の襟や裾が分からないなどの症状を認めた。
介入方法を検討する際、脳画像所見では、側頭葉~後頭葉に損傷を認めたこと、プレシェイピングが困難であったことから視覚腹側経路と背腹側視覚経路の障害を推察した。しかし、視覚性運動失調を認めないことから、背背側視覚経路の残存を仮説付けた。
【介入と結果】
介入は基本的な運動課題に加え、Rosselliらの報告を参考に視覚認知課題を取り入れた。具体的には服全体から袖や襟への追視の誘導や、本症例の手を介助者が誘導することで視覚及び触覚情報の感覚統合を促した。家族指導では、整容・更衣時の注意点の指導、自宅環境のアドバイスを実施した。なお、病室環境や使用物品は機能適応を促すため自宅環境に近い設定とし、理学療法は介入場所・時間を統一した。
最終評価時(入院第75病日)、ADLはFIM:67点(整容・更衣:5点)、MMSE:13点へと改善を認めた。SLTAでは大きな変化は認めず、SPTAでは物品操作時の錯行為と保続は残存した。しかし、更衣では服の全体像を提示することで見守り(180秒)で実施可能となり、環境調整により対象物の探索も可能となった。なお、運動麻痺、感覚、バランス、歩行機能に変化は認めなかった。
【結論】
本症例の介入において、視覚と体性感覚に着目した動作誘導と家族指導によって機能代償が可能となり、セルフケア動作の介助量軽減に繋がった可能性が考えられた。
バリント症候群は精神性注視麻痺、視覚性注意障害、視覚性運動失調の3兆候からなる(Balint R、1909)。今回、上記に加え、観念失行を呈した症例を担当する機会を得た。
症例は60歳代女性、夫・息子との三人暮らし、日中独居であった。X年、脳動静脈奇形破裂による左後頭葉の出血の後、右側頭葉~後頭葉にかけて広範囲の梗塞を認め、開頭血腫除去術を施行された。急性期病院で30日間の入院加療後、当院の回復期病棟へ転院の運びとなった。
【評価とリーズニング】
初期評価時(入院第3病日)、FIM:55点(整容・更衣:4点)、Fugl-Meyer assessment:下肢合計34点・上肢合計60点、Brs:下肢・手指・上肢Ⅵ、感覚:正常(表在・固有)、鼻指鼻試験:正常、Berg Balance Scale:51点、10m歩行試験:11秒15歩と運動機能は概ね良好であった。一方、Mini Mental State Examination(MMSE):7点、標準失語症検査(SLTA)は、聴理解は単語レベル、状況判断及び従命は可能、標準高次動作性検査(SPTA)は、習慣的動作は口頭指示・模倣は可能であったが、物品操作時に錯行為と保続が生じ、観念失行と判断した。セルフケア動作は、観念失行の影響で歯磨き粉の蓋開閉が出来ない、服の着方が分からない場面を認め、精神性注視麻痺、視覚性注意障害の影響で水栓の場所を探せない、服の襟や裾が分からないなどの症状を認めた。
介入方法を検討する際、脳画像所見では、側頭葉~後頭葉に損傷を認めたこと、プレシェイピングが困難であったことから視覚腹側経路と背腹側視覚経路の障害を推察した。しかし、視覚性運動失調を認めないことから、背背側視覚経路の残存を仮説付けた。
【介入と結果】
介入は基本的な運動課題に加え、Rosselliらの報告を参考に視覚認知課題を取り入れた。具体的には服全体から袖や襟への追視の誘導や、本症例の手を介助者が誘導することで視覚及び触覚情報の感覚統合を促した。家族指導では、整容・更衣時の注意点の指導、自宅環境のアドバイスを実施した。なお、病室環境や使用物品は機能適応を促すため自宅環境に近い設定とし、理学療法は介入場所・時間を統一した。
最終評価時(入院第75病日)、ADLはFIM:67点(整容・更衣:5点)、MMSE:13点へと改善を認めた。SLTAでは大きな変化は認めず、SPTAでは物品操作時の錯行為と保続は残存した。しかし、更衣では服の全体像を提示することで見守り(180秒)で実施可能となり、環境調整により対象物の探索も可能となった。なお、運動麻痺、感覚、バランス、歩行機能に変化は認めなかった。
【結論】
本症例の介入において、視覚と体性感覚に着目した動作誘導と家族指導によって機能代償が可能となり、セルフケア動作の介助量軽減に繋がった可能性が考えられた。