第34回大阪府理学療法学術大会

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selection oral session

事前公開

[SO-02] 【事前公開】査読者推薦演題②(回復期)

座長:脇田 正徳(関西医科大学)

[SO-02-3] 反復転倒歴を有した高齢頚髄不全損傷患者一症例~移乗と排泄動作の自立へ向けた介入~

田口 周輝, 小笠原 崚 (JCHO星ヶ丘医療センターリハビリテーション部)

Keywords:非骨傷性頚髄損傷、反復転倒歴

【症例紹介】
本症例は自宅内で転倒し、非骨傷性頚髄損傷の診断を受け、X日に頚椎椎弓形成術(C3-6椎弓形成、C4-6プレート固定)を施行された80歳代女性である。既往歴に両変形性膝関節症(両膝OA)、反復転倒による人工骨頭置換術および慢性硬膜下血腫を有していた。受傷前ADLは歩行器歩行で屋内移動は自立していたが、受傷後はADL全般で全介助を要した。介護保険サービス(要介護4)を利用しながら日中は独居、夜間は娘が介護を行い生活されていた。本人HOPEは「早く家に帰りたい」、家族HOPEは「術前より介護量が増えず、トイレが自立できれば自宅退院させたい」であった。受傷前背景と初回評価を踏まえ、最終動作手段を早期に決定し介入したことで自宅復帰に至ったため報告する。
【評価とリーズニング】
以下、初回評価(X+25~27日)を記す。American Spinal Injury Associationの上肢運動総点は39/50、下肢運動総点は35/50、感覚は損傷高位以下鈍麻、神経学的損傷高位はC3、ASIA Impairment ScaleはD。Trunk control testは61/100点であり、また端坐位でいざり移動が可能であった。両膝OAの疼痛はNumerical Rating Scaleで安静時3/10、動作時8/10、Functional Independence Measure(FIM)は71/126点(移乗3点、トイレ動作2点、排泄管理5点)であった。膀胱機能として残尿量が臥位尿失禁後50mL、座位トイレ排尿後0mLであった。立位経由で移乗した際の膝の疼痛により離床意欲が低下しており、尿路感染や褥瘡の発症リスクが懸念された。反復転倒歴も考慮し、活動を妨げずかつ安全性を優先した動作手段と環境調整が必要と考え、自宅復帰に向けた目標を「いざり移動を利用した移乗およびポータブルトイレ(以下Pトイレ)での排泄動作自立」とした。
【介入と結果】
いざり移動での移乗に変更直後より膝の疼痛なく軽介助で可能となったため、X+27日より自立へ向けて体幹や股関節の可動域練習、座位バランス練習を行った。自宅訪問を早期に設定(X+59日)し、自宅環境での動作確認と環境設定を行った。X+61日より病室の環境を自宅環境と同様に設定し、Pトイレへの移乗や下衣操作練習を中心に行った。また、おむつのパッド交換練習やデイサービスで通常のトイレを利用することも想定し、手すりを利用した立位経由での移乗練習も行った。最終評価(X+107日)では、FIMの合計点は95/126点(移乗5点、トイレ動作5点、排泄管理7点)となった。夜間は娘の介護が得られるため、日中のサービスプランを退院前に多職種で調整し自宅復帰へと至った。
【結論】
膝OAの疼痛増強を起因とした活動意欲の低下とそれに伴う合併症リスク、および再転倒リスクを有した独居の高齢非骨傷性脊髄損傷患者に対し、受傷前背景と初回評価を基に、移乗および排泄の動作方法を早期に決定し介入したことで自宅復帰に至った。