[SO-04-3] 人工股関節全置換術後、術前より続く運動戦略により股関節機能回復に難渋した1症例
Keywords:両側変形性股関節症、人工股関節全置換術
【症例紹介】
60歳代女性。今回、右変形性股関節症(以下股OA)に対し右人工股関節全置換術(以下THA)前外側アプローチを施行。8ヶ月前に両変形性股OAの診断。既往歴に左THA(6ヶ月前)。術前には2cmの右脚短縮を認め、骨盤前傾・腰椎過前弯を呈する股OA特有の姿勢であった。外出機会が多く、自宅はマンション2階で階段昇降が必須であった。カナダ作業遂行測定(以下COPM)にて円滑な歩行・階段動作に関する希望を聴取。歩行と階段動作の共通の問題点と術前より続く運動戦略に着目し治療を展開した。
【評価とリーズニング】
初期評価を術後14日、最終評価を術後47日とした。COPM(遂行度・満足度の順で表記)では、①スムーズに歩ける(1・1)、②スムーズに階段昇降ができる(1・1)を聴取。関節可動域測定(以下ROM、右/左、単位°)は股関節屈曲100/115、伸展0/10、内転0/10。徒手筋力検査(以下MMT、右/左)は股関節伸展2/4、外転2/4。整形外科テスト(右/左)はThomas test陽性/陽性、Ely test陽性/陰性。脚長差なし。触診による筋緊張検査では、両脊柱起立筋・広背筋、右大腿直筋・大腿筋膜張筋・中殿筋の過緊張、腹筋群の低緊張を認めた。歩行では右LR~MStで体幹右側屈、右股関節外転位。右MSt~TStで骨盤前傾・腰椎過前弯を呈していた。10m歩行では23.2秒・41歩。階段昇段では体重受容相で体幹右側屈、右股関節外転位、引き上げ相で骨盤前傾位を呈していた。術前から骨盤前傾・腰椎過前弯による運動戦略が残存。また術後の問題点として術侵襲による中殿筋の筋損傷、下肢長変化により腸腰筋・大腿直筋・中殿筋・大殿筋が伸長位となり股関節伸展・内転可動域制限と股関節伸展・外転筋出力低下を惹起。術前からの運動戦略が大殿筋筋活動を阻害し、両動作において立脚時間短縮・歩幅の減少が生じていると推察した。
【介入と結果】
術後26日まで入院理学療法実施。以降、外来理学療法を週1回で実施。治療は股関節伸展・内転可動域改善を目的に、過緊張筋に対する筋徒手療法を実施。筋出力向上や運動戦略修正を目的に課題難易度や環境の設定を行ないながら、骨盤前傾・腰椎前弯を抑制した中で殿筋・腹筋群の筋出力向上を図った。結果(右側のみ記載)、ROMは股関節屈曲120、伸展10、内転10。筋緊張検査では過緊張、低緊張ともに軽減。MMTは股関節伸展4、外転4。歩行・階段昇段動作における前額面上の体幹右側屈・右股関節外転位、矢状面上の骨盤前傾・腰椎過前弯が軽減し右立脚時間が延長。10m歩行では9.8秒・19歩と歩幅の増大を認め、歩行速度が向上した。COPM (遂行度・満足度)においても、①(10・10)、②(10・10)と改善を得た。
【結論】
変性疾患の多くは長年の姿勢や運動習慣により進行する。今回、手術による器質的な問題の改善のみでなく、術前からの運動戦略を考慮した治療介入により良好な結果を得たと推察する。
60歳代女性。今回、右変形性股関節症(以下股OA)に対し右人工股関節全置換術(以下THA)前外側アプローチを施行。8ヶ月前に両変形性股OAの診断。既往歴に左THA(6ヶ月前)。術前には2cmの右脚短縮を認め、骨盤前傾・腰椎過前弯を呈する股OA特有の姿勢であった。外出機会が多く、自宅はマンション2階で階段昇降が必須であった。カナダ作業遂行測定(以下COPM)にて円滑な歩行・階段動作に関する希望を聴取。歩行と階段動作の共通の問題点と術前より続く運動戦略に着目し治療を展開した。
【評価とリーズニング】
初期評価を術後14日、最終評価を術後47日とした。COPM(遂行度・満足度の順で表記)では、①スムーズに歩ける(1・1)、②スムーズに階段昇降ができる(1・1)を聴取。関節可動域測定(以下ROM、右/左、単位°)は股関節屈曲100/115、伸展0/10、内転0/10。徒手筋力検査(以下MMT、右/左)は股関節伸展2/4、外転2/4。整形外科テスト(右/左)はThomas test陽性/陽性、Ely test陽性/陰性。脚長差なし。触診による筋緊張検査では、両脊柱起立筋・広背筋、右大腿直筋・大腿筋膜張筋・中殿筋の過緊張、腹筋群の低緊張を認めた。歩行では右LR~MStで体幹右側屈、右股関節外転位。右MSt~TStで骨盤前傾・腰椎過前弯を呈していた。10m歩行では23.2秒・41歩。階段昇段では体重受容相で体幹右側屈、右股関節外転位、引き上げ相で骨盤前傾位を呈していた。術前から骨盤前傾・腰椎過前弯による運動戦略が残存。また術後の問題点として術侵襲による中殿筋の筋損傷、下肢長変化により腸腰筋・大腿直筋・中殿筋・大殿筋が伸長位となり股関節伸展・内転可動域制限と股関節伸展・外転筋出力低下を惹起。術前からの運動戦略が大殿筋筋活動を阻害し、両動作において立脚時間短縮・歩幅の減少が生じていると推察した。
【介入と結果】
術後26日まで入院理学療法実施。以降、外来理学療法を週1回で実施。治療は股関節伸展・内転可動域改善を目的に、過緊張筋に対する筋徒手療法を実施。筋出力向上や運動戦略修正を目的に課題難易度や環境の設定を行ないながら、骨盤前傾・腰椎前弯を抑制した中で殿筋・腹筋群の筋出力向上を図った。結果(右側のみ記載)、ROMは股関節屈曲120、伸展10、内転10。筋緊張検査では過緊張、低緊張ともに軽減。MMTは股関節伸展4、外転4。歩行・階段昇段動作における前額面上の体幹右側屈・右股関節外転位、矢状面上の骨盤前傾・腰椎過前弯が軽減し右立脚時間が延長。10m歩行では9.8秒・19歩と歩幅の増大を認め、歩行速度が向上した。COPM (遂行度・満足度)においても、①(10・10)、②(10・10)と改善を得た。
【結論】
変性疾患の多くは長年の姿勢や運動習慣により進行する。今回、手術による器質的な問題の改善のみでなく、術前からの運動戦略を考慮した治療介入により良好な結果を得たと推察する。