第16回日本薬局学会学術総会

講演情報

デザートセミナー

デザートセミナー1

2022年11月5日(土) 13:30 〜 14:30 第4会場 (4階 411+412)

座長:西村 佳子(総合メディカル(株) 学術情報部 主任専門薬剤師)

共催:日医工㈱

[DS1] 薬からの摂食嚥下臨床~服薬困難と薬剤性嚥下障害に挑む

野原 幹司 (大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能治療学教室 准教授)

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 薬学系の学会で嚥下障害のセミナーが組まれるということに時代の流れを感じているのは演者だけではないと思う.これまで薬剤師の学部教育ではもちろん,卒後教育でもあまり嚥下障害については取り上げられてこなかった.「これまで」はそれでよかったのであろう.しかし日本は未曽有の超高齢社会を迎え,嚥下障害の患者が爆発的に増加している.それら患者に薬剤師は何もしなくていいのであろうか?
 嚥下障害患者に対して薬剤師が果たすべき役割は大きく2つある.1つは,服薬困難への対応である.現在は医薬品の約70%(売り上げ比)が経口投与といわれている.経口投与された薬剤は食道からその下部の消化管へ到達しなければ効果を発揮しない.嚥下障害のある患者では,ムセて薬剤が口腔外へこぼれたり,口腔や咽頭に残留したり,また誤嚥するのが苦痛であるため服薬を自己判断で止めている場合もある.薬剤師はそういう状況にまず気づき,そして嚥下機能に応じた適切な服薬方法を提案できなければならない.
 もう1つの大きな役割は,薬剤の副作用による嚥下障害に気づき対応することである.薬剤性の嚥下障害はこれまで考えられていたよりも多く,薬剤が原因で誤嚥性肺炎を生じている症例も散見される.もちろん主治医が気づけばよいが高齢者は疾患を多数抱えており管理が大変なため,そこまで気を回せる主治医はわずかである.そこは薬剤の専門家である薬剤師がカバーすべき領域である.
 高齢者は26%が5疾患以上に罹患しているという報告もあり,どうしても服用薬剤が増えてしまう傾向にある.しかしながら,①急性症状の改善のために使用された薬剤の漫然使用,②他医によって処方された薬剤を中止することへの
ためらい,③薬剤の中止による病態の変化への不安,④複数の医師による処方,などのために必要でない薬剤を服用し続けている高齢者も少なくない.その結果,服薬困難や薬剤性嚥下障害を呈しているのである.そこに気づけるのは薬剤師の「目」である.
 今回のセミナーでは,嚥下専門医の立場から画像を交えつつ,高齢者の服薬の現状と嚥下障害の原因となりやすい薬剤を解説する予定である.嚥下専門の薬剤師や嚥下障害のケアを得意とする薬局が増えることが演者の強い願いである.