[LS9] がん薬物療法における副作用マネジメント~“地域で患者を診る”ための基盤づくり~
近年の分子生物学の発展は、がん細胞の増殖や転移のメカニズムを遺伝子レベルで解明し、多くの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤が登場するに至っている。このことは治療成績向上に寄与する反面、副作用は従来の殺細胞性抗がん薬より多様化し、高齢者や併存疾患の有無により複雑性が増していることから、チーム医療の中で薬剤師に求められる役割は大きくなっている。また、これらの大半が外来治療で行われることから、多くの施設では、外来化学療法センターに薬剤師を配置し、支持療法薬の説明や副作用モニタリングを行っている。しかし、薬剤特有の副作用や発現時期をある程度予測した患者説明を行うものの、外来診療という短い時間の中での対応にとどまり、そして多くの副作用は居宅で発生するという点に対して十分な対応ができていないという問題を抱えている。したがって、居宅中における継続的な患者支援において保険薬局薬剤師に期待される役割は大きい。一方、保険薬局薬剤師とってはレジメン情報、臨床検査値、治療経過、診療内容等の情報が不足しているという安全かつ的確な患者支援をする上で不利な状況になっているのも現実である。これらは、薬薬連携等によって、一部共有されている施設もあるが十分でないことは推察できる。また、副作用対策は教科書的な知識だけでは難しく、多くの患者に関わり、患者から学ぶ、経験という引き出しの多さが対応の質になる。レゴラフェニブの登場初期、手足症候群Grade1が発現、適正使用ガイドライン通りに対応したが、1週間後の外来受診時にはGrade3に移行し、歩行不能にさせてしまった苦い経験がある。この時、Day3あたりで確認できれば回避できたかもしれないと回想するが、この経験を次症例に活かす、この繰り返しで経験値を積みあげた。こういったことを、単施設ではなく、地域で共有する仕組みができたらと常々思う。現在、がん化学療法の多くはがん診療連携拠点病院等の機能をもつ施設で行われているが、病診連携の進展に伴い、診療所でがん化学療法や支持療法が行われることも増えてくる可能性がある。今回、がん化学療法における副作用マネジメントをテーマにしているが、“地域で患者を診る”ために、薬剤師は今後どうすべきかを一緒に考えていきたい。