第17回日本薬局学会学術総会

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特別講演

特別講演「癌医療におけるイノベーションと地域連携」

Mon. Oct 9, 2023 10:40 AM - 11:40 AM 第1会場 (1号館2階 センチュリーホール)

[特別講演] 癌医療におけるイノベーションと地域連携

吉田 和弘 (国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 学長)

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 癌遺伝子の発見から既に50年近くが経過し、癌は遺伝子の病気である事が明らかになった。我が国の国民の3分の1が癌で亡くなり、2分の1が何らかの癌に罹患しており、癌は国民病となった。癌の原因の検索と治療の創出に向けて全世界をあげて、新たなイノベーションの創出を続けてきた。癌遺伝子、癌抑制遺伝子やepigenetic な変化の発見、さらには癌免疫の進歩により、癌治療も殺細胞効果の強い抗がん剤治療の進歩に加え、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤の創出につながった。しかしながら固形癌の治療の基本は外科治療であり、腫瘍外科医の果たす役割は極めて重要である。特に外科治療の進歩は著しく、開腹手術から腹腔鏡手術更にはダビンチを用いたロボット支援治療が行われるに至り、出血量も低下し、より低侵襲な手術であると同時に、より緻密で質の高い手術が可能となった。私たちは、胃癌におけるS-1+タキソテール治療を開発し、stage III 胃癌の新たな術後補助化学療法として胃癌のガイドラインに収載された。さらに、抗がん剤治療の進歩により、切除不能の癌が切除可能となり、conversion surgery という新たな治療概念の創出をおこない、最新治療の開発を通じて治療成績の向上に取り組んできた。一方、集学的治療を担う薬剤師の役割は、チーム医療の中心的な役割を演じている。新たな治療の開発や治験、実臨床における患者さんに直接関与し、治療継続や有害事象管理において近年その重要性を増している。Precision medicineの発展やliquid biopsy の重要性も明らかになった。更にポストコロナ時代を受けて、癌医療の均霑化と同時に高度治療の集約化が進む中、遠隔手術やオンラインによる治験や診療など新たな時代へと進化し続けている。岐阜大学は新たな治療の開発として、ポストゲノムの時代の潮流を糖鎖研究に定め、ヒューマングライコームプロジェクト(岐阜大学、名古屋大学、自然科学研究機構、創価大学)を国家プロジェクトとして主導し、新たな病因や創薬につなげる基礎研究に注力している。これらの時代的な研究背景と、癌研究における、art, science, humanity の重要性について概説する。