第18回日本薬局学会学術総会

講演情報

教育講演

教育講演2
「在宅での服薬管理の質向上と無意識化のために- 医工学研究の最前線-」

2024年11月3日(日) 10:40 〜 11:30 第1会場 (1階 メインホール)

座長:浜田 康次(アポクリート株式会社 顧問)

[EL2] 在宅での服薬管理の質向上と無意識化のために-医工学研究の最前線-

松元 亮 (東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 材料科学研究部門 有機生体材料学分野 教授/東京大学大学院 工学系研究科 マテリアル工学専攻 特定客員教授)

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 近年のワクチン免疫学の発展により、「ワクチンとアジュバントとの共局在を達成し、その時空間パターンを週・日・時間単位で精密に制御すること」、すなわち、“スケジューリング”の重要性を示すエビデンスが蓄積されている。しかしながら、これを健常者が大部分を占める全国民を対象に、通院または集団接種を通じて制度的に達成することは、社会・医療インフラへの負担およびアドヒランス実効性の観点から不可能である。このワクチン医療におけるアンメットメディカルニーズを解決し、医療経済性、コールドチェーン、省人・遠隔化を通じて社会全体の対応力を真に強化しうる一つの現実解は、マイクロニードルによる「貼るだけ」技術と考えられる。しかし、これまでのマイクロニードル技術は、高々数時間規模で一過性の供給をもたらすにとどまり、日・週単位の徐放性を実現したものはない。
 上記の要請に応えるためには、皮内生理環境と同期して所望の抗原量の時空間パターンを持続的に生み出す、新たな材料技術を創出する必要がある。同様の技術課題は、超高齢社会を迎えた我が国の在宅医療の現場でも当てはまる。「血管が脆くて、高齢者への注射・点滴は大変!」は、医療現場の切実な悩みである。点滴や注射は、医療事故の原因になりやすく、何度も針を刺すことで患者にも苦痛を強いるほか、病院でしか注射を受けることができず、入院、通院から在宅医療へシフトする上でも障害となる。また、複数の生活習慣病に罹患した患者が多数の薬剤を服用するポリファーマシーも課題であり、それに伴う薬の飲み忘れや誤服用が、生活習慣病を悪化させる主な原因の一つである。すなわち、処方された薬剤を、誰でも正確かつ簡便に、苦痛なく服用する過程に大きなアンメットニーズが存在している。
 我々はこれまで、独自の分子認識性ハイドロゲルの材料技術とマイクロニードルを融合した「貼るだけ人工膵臓」の開発を進めてきた。2ヶ月以上安定に、秒単位の急性応答性と週単位の徐放性とを両立しながら血糖値依存的にインスリンを供給する、前例のない非機械型デバイスとして実用化研究を推進中である。
 本発表では、当該「貼るだけ人工膵臓」の最新の開発状況に加えて、上記ワクチン医療や在宅での服薬管理にまつわるニーズ解決への取り組みを述べる。