第18回日本薬局学会学術総会

講演情報

ランチョンセミナー

ランチョンセミナー9

2024年11月3日(日) 11:50 〜 12:50 第4会場 (3階 311+312)

座長:倉田 なおみ(昭和大学薬学部 社会健康薬学講座社会薬学部門 客員教授/昭和大学薬学部 臨床薬学講座臨床栄養代謝学部門 客員教授(併任))

共催:日医工株式会社

[LS9-1] どうする嚥下障害? ~誤嚥性肺炎の対応は薬だけではない~

西山 耕一郎 (西山耳鼻咽喉科医院院長(横浜市南区)/東海大学医学部客員教授/藤田医科大学医学部客員教授)

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【はじめに】
我国は超高齢社会を迎え嚥下障害例は急増し、医療者は嚥下障害の対応から避けて通れない。以前は『誤嚥(嚥下)性肺炎の原因は唾液誤嚥だけであり、食物を誤嚥しても肺炎を発症することは無い。』とされていたが、近年は食物誤嚥や、胃食道逆流による誤嚥性肺炎の発症が注目されている。また「舌の体操で嚥下機能の改善が期待できる。」という意見もあるが、食形態の調整や食事姿勢、咽頭期の訓練と、呼吸排痰訓練が推奨されている。75歳以上の1/3は食物を誤嚥しており、痰や咳の症状で薬局を受診していることを本セミナー受講者に、是非知って欲しい。
【びまん性嚥下性細気管支炎】
嚥下機能が低下すると錠剤が飲み難くなり、食物や水を誤嚥し、細気管支内に侵入して異物反応から炎症を生じて気道分泌液が増加し、 “びまん性嚥下性細気管支炎(Diffuse Aspiration Bronchiolitis;DAB)”を発症する。痰がノドに絡むので、ノドの“つまり”や違和感を訴える。この状態で誤嚥を繰り返すと、嚥下性肺炎を発症する。
【食形態の調整と嚥下指導で食物誤嚥を減らす】
食形態を米飯から全粥かミキサー食かゼリー食に変更して食物誤嚥のリスクを減らす。飲み込む瞬間は“軽くおじぎ”をし、“意識してゴックン”と飲み込む、ノドごしの良い物から食べ始め、“一口量は少なめに”、“ムセたら十分に咳をして”喀出する。ながら食べを避け、口の中に溜め込まず、食事に集中する等の嚥下指導で食物誤嚥をある程度は減らせる。また嚥下し易い剤形への変更も考慮する。
【外来でできる嚥下訓練法と指導】
喉頭挙上訓練として、 “嚥下おでこ体操”、“顎持ち上げ体操”が推奨される。簡単に指導が出来、場所を選ばず特別な器具も不要であり、診療所で喉頭挙上訓練の有効性が報告されている。呼吸機能を鍛えることは声門下圧を高めるので、誤嚥を減らし誤嚥物を喀出し易くなる。代表的な訓練法に、“口すぼめ呼吸”があり、吹き戻しやペットボトルで代用できる。軽症例なら各訓練を1日30回約6週間行うと、ムセや痰の量が減少し、錠剤も飲み易くなる。去痰薬は誤嚥性肺炎発症予防に有効であるが、リン酸コデイン等の鎮咳薬は禁忌である。
【まとめ】軽度嚥下機能低下とびまん性嚥下性細気管支炎を早期に診断し、誤嚥し難い食形態に変更し、嚥下指導と喉頭挙上自主訓練を指導すれば嚥下機能の改善が期待出来る。薬剤師の介入により誤嚥性肺炎の入院を回避出来れば、医療費の削減も期待できる。