[P-013-A] カナグリフロジン水和物錠による下痢を発症した1症例
【背景(目的)】SGLT 2 阻害薬は、腎臓の近位尿細管でグルコースの再吸収を担っているSGLT2を選択的に阻害し、尿糖排泄を促進することで血糖低下作用を発揮する。現在では糖尿病だけでなく、慢性腎臓病及び慢性心不全まで適応を拡大し、年々使用量が増加している。今回、新規でカナグリフロジン水和物錠 100 mgが処方された患者において、下痢を発現した症例について報告する。【症例報告】60 歳代の女性、現疾患は高血圧症、脂質異常症である。HbA1c が高い状態が数カ月継続したため、カナグリフロジン水和物錠 100 mg が処方された(HbA1c : 7.2%)。次回来局時に、カナグリフロジン水和物錠 100 mg を服用開始してから下痢するようになり、水分摂取も積極的にできなかったと相談を受けた。SGLT 1 は小腸上皮細胞にも発現しており、経口摂取した食物中のグルコースの吸収を担っている。SGLT 1 の機能不全では小腸での糖吸収不全による重篤な下痢を発現することが報告されているため、各SGLT 2 阻害薬のSGLT 2に対するSGLT1への選択性(SGLT 1/SGLT 2)に着目し、最もSGLT1への選択性が低いエンパグリフロジン 10 mg への処方変更を医師に提案し、処方変更となった。その後、下痢は改善し、積極的な水分摂取も実践できており、HbA1c の改善もみられている(HbA1c : 6.6%)。【考察】SGLT2阻害薬は、SGLT 1受容体の阻害作用も合わせ持ち、SGLT 2に対するSGLT1への選択性は薬剤によって異なる。カナグリフロジンは、他SGLT2阻害薬と比較して、SGLT1への選択性が高いため、下痢を発現しやすいのではないかと推察された。また、SGLT1をより強く阻害することで、多くの未吸収の糖質が小腸下部に到達するようになり、L細胞を介したGLP-1分泌量が多くなることで、GLP-1受容体作動薬服用時にみられるような下痢症状が起こりやすくなるのではないかと考えられた。