[2P-23] 新規RUNX1阻害薬候補化合物の結合様式に関する分子動力学法による解析
RUNX1は特に造血細胞の分化に重要な転写因子であり、血液腫瘍疾患に伴う染色体異常にも深く関連している。例えばRUNX1をコードする遺伝子が存在する21番染色体と多量体形成能を有するETOをコードする8番染色体との転座は、RUNX1とETOとの融合蛋白質であるRUNX1-ETOの発現を惹起し、急性骨髄性白血病の発症などに関連している。このように、RUNX1はがん治療などの分子標的としての医療応用に重要であると考えられている。横浜市立大学の濱田恵輔博士らは、これまでにRUNX1の活性を制御する候補化合物を数種見出しており、これらについてはin vitroでのRUNX1との結合活性とRUNX1に対するDNA結合阻害効果を確認している。しかし、これらの阻害化合物とRUNX1との複合体についてのX線結晶構造解析には未だ成功しておらず、阻害機構の詳細は不明である。そこで本研究では、候補化合物のドッキング計算の結果得られた予測構造に基づき分子動力学法によって結合様式の検討を行なった。シミュレーションでは、14種類の化合物についてそれぞれ1μsのNVT計算を行い、そのアンサンブルについてエネルギー地形の描出および安定構造の同定を行なった。結果として、候補化合物の結合様式は単一ではなく複数存在しており、これら複数の結合様式の間を行き来していることがわかった。この構造の多様性はin vitroによる活性に関わらず全ての化合物で見られた。今後、拡張アンサンブル法による検討を行い、結合様式をより精密に推定する予定である。