第21回日本蛋白質科学会年会

講演情報

ポスターセッション

[2P-2] ポスター2(2P-38ー2P-88)

2021年6月17日(木) 14:45 〜 16:45 ポスター会場2

[2P-69*] 腫瘍標的ペプチド付加リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を用いた抗癌剤paclitaxelに対するドラッグデリバリーシステム

古田 航祐, 中辻 匡俊, 吉田 はるな, 大久保 理奈, 乾 隆 (大阪府大・院・生命環境)

Paclitaxel(PTX)は,幅広い癌種に対して有効な優れた抗癌剤であるが,難水溶性であることや重篤な副作用を示すことが問題となっている。そこで我々は,生体内輸送蛋白質であるリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)を用いたドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発を目指しており,これまでにL-PGDSが複合体形成によりPTXを可溶化することを報告している。そこで本研究では,腫瘍特異的DDSの開発を目指し,癌標的ペプチドCRGDKを付加したL-PGDS変異体(L-PGDS-CRGDK)の細胞内移行性,およびPTXとの複合体のin vivoにおける抗腫瘍効果を評価した。
まず,ヒト乳癌細胞株MDA-MB-231に対してEGFPを融合したL-PGDS,またはL-PGDS-CRGDKを1 h曝露し,共焦点蛍光顕微鏡により観察した。その結果,L-PGDSにおいては緑色蛍光が観察されなかったが,L-PGDS-CRGDKでは細胞質において強い蛍光が確認されたことから,CRGDKペプチドの付加によりL-PGDSがMDA-MB-231に取込まれることが示された。また,PTXのPBSに対する溶解度は0.12 μMであったが,1 mM L-PGDS-CRGDK存在下におけるPTX濃度は840 μMまで上昇し,本蛋白質が60% DMSO溶液(820 μM)に匹敵する高い可溶化効果を示すことが明らかとなった。さらに,乳癌モデルマウスにおいて,PTX/L-PGDS-CRGDK複合体はPTXの上市製剤であるTaxol,およびPTX/L-PGDS複合体と比較して腫瘍成長を長期間抑制した。
したがって,L-PGDS-CRGDKはPTXに対する腫瘍標的性DDSキャリアとして有用であると考えられる。