第21回日本蛋白質科学会年会

講演情報

ポスターセッション

[2P-2] ポスター2(2P-38ー2P-88)

2021年6月17日(木) 14:45 〜 16:45 ポスター会場2

[2P-75*] 分子動力学法を用いた安定なトラスツズマブ由来の一本鎖抗体の分子設計

岡崎 匡1, 森田 光2, 大水 良太2, 山内 聡一郎2, 劉 宸江2, 佐藤 卓史2, 小橋川 敬博2, 森岡 弘志2 (1.熊大・薬, 2.熊大院・薬)

タンパク質は摩擦や熱などの物理的ストレスにより変性し、凝集する。凝集体はアレルギー反応や抗薬物抗体産生の要因となる。そのため、抗体医薬品の開発では、凝集体の形成の抑制が求められる。変性は凝集体形成の起点となるため、熱安定性が高い抗体の作製が必要である。本研究では分子動力学法を用いた合理的な設計に基づき、抗体の安定性の向上を試みた。抗体分子において、抗原認識を担う可変部領域(Fv)が最も安定性が低く、抗体の安定性はFv領域により決定される。そこで、本研究では抗HER2抗体であるトラスツズマブのFv領域をペプチドリンカーで連結した一本鎖抗体をモデル抗体とした。最初に、分子動力学計算ソフトウェアGROMACS 2018を用いて50nsの計算を行った。その結果、揺らぎが大きいストランドG、H近傍部位を特定した。その特定した部位に変異を導入し、再度50nsの計算を行うことを繰り返し、複数の変異体について評価を行った。その結果、合計2つの変異の導入により揺らぎを抑えることに成功した。実際に、この変異体を調製し、示差走査蛍光測定を行ったところ、熱安定性の向上が確認された。さらに、表面プラズモン共鳴測定を行ったところ、抗原結合活性を損なうことなく熱安定性を向上させる変異であることが確認された。本研究の結果から、分子動力学法を用いることで、変異体候補を絞り込むことが可能であり、安定な抗体の設計を迅速に行えることが示された。