第21回日本蛋白質科学会年会

講演情報

シンポジウム

[S] 蛋白質科学が社会へ与えるインパクト:AMED-BINDSから次のステージへ

2021年6月16日(水) 09:45 〜 12:15 チャンネル1

オーガナイザー:津本 浩平(東京大学)、中村 春木(大阪大学)

共催:AMED-BINDS

10:30 〜 10:50

[S-4] 新たなタンパク質結晶化促進剤の開発と応用

姚 閔 (北大院・先端生命)

近年、クライオ電顕法の技術的革新により、巨大複合体や膜タンパク質の構造解析が速やかに行われてきたが、X線結晶構造解析法は、分子の全体の原子座標を高分解能での正確に決めるという特長で、生命科学や創薬などにとって、依然、欠かせない研究手法である。
タンパク質結晶構造解析法は、放射光や検出器などのハードウエアや、位相決定や電子密度改良などのソフトウエアの革新により、飛躍的な発展を遂げた。構造解析が自動化、迅速化され、様々な分野で広く使われている現状になってきた。一方で、タンパク質の性質、形や大きさ、表面電荷の分布などがさまざまであるため、その結晶化の条件は一定ではなく、さまざまな条件の試行錯誤が必要である。X線回折実験に適用できる結晶の作製は、現在でもタンパク質結晶構造解析のボトルネック技術となっている。
タンパク質の結晶化には、まず結晶核を形成しなければならない。この核形成は、結晶化のボトルネックであり、低頻度で制御困難な、タンパク質溶液-結晶相転移の熱力学に支配される物理化学的過程である。核形成の問題を解決するため、タンパク質結晶の核形成剤(核剤)の開発は、以前から注目されてきた。しかし、タンパク質分子の形態学上の複雑性(多様なサイズ、不規則な形状、様々な表面電荷、表面形状の動的な特徴など)によって、これまでに開発された核剤の有効性は限定的である。また、核剤による溶液-結晶相転移のメカニズムの詳細が解明されていないため、有効な核剤の設計も困難である。
我々は、タンパク質の形態学的複雑性および多様性を考慮し、金属有機構造体の規則的なナノ構造から、タンパク質の自己組織化・結晶パッキング(核形成)を誘発するというアイデアを発想し、核形成剤の開発を始めました。さらに、レッジをもつ表面構造には核形成促進能があることを見出し、結晶化の促進効果があるBLL(Balanced-Lattice Ledge)核剤を開発した(日米特許出願中)。モデルタンパク質3個、および結晶化に再現性無、低分解能、結晶しないなどの問題のある13個タンパク質の結晶化にBLL核剤を適用した結果、ドメインディスオーダーのある1個サンプル以外の、15個のタンパク質(2個膜タンパク質を含む)の結晶化に成功し、分解能が改善されたサンプルもあった。そのうち、8個の構造解析に成功し、得られた構造から核剤成分は構造のコンフォメーションや結晶パッキングに対する影響が見られていなく、BLL核剤の汎用性と有効性を提示した。また、このBLL核剤はレッジの周辺に集中的にタンパク質溶液を過飽和させるというメリットがあるため、その核剤を使用することによってタンパク質の低濃度(通常結晶化用の1/2-1/3程度)条件で、速やかに結晶核が形成でき、少量サンプルでの結晶化も可能にすることができた。