第21回日本蛋白質科学会年会

講演情報

ワークショップ

[WS9] 抗体工学と蛋白質科学の親和性成熟化 −抗体利用の新たな可能性−

2021年6月18日(金) 09:45 〜 12:15 チャンネル2

オーガナイザー:禾 晃和(横浜市立大学)、日野 智也(鳥取大学)

10:39 〜 11:03

[WS9-03] インテグリン/ラミニンの構造学的研究へのFv-claspの応用

有森 貴夫1, 宮崎 直幸2, 高木 淳一1 (1.阪大・蛋白研, 2.筑波大・生存ダイナミクス研)

我々が開発した小型抗体フォーマット「Fv-clasp」は、従来の小型抗体であるFabや単鎖Fvを凌駕する生産性や熱安定性を示し、さらに、極めて高い結晶化能を有している。これらの性質により、Fv-claspは抗体の構造解析を容易にするだけでなく、膜タンパク質や糖タンパク質など、様々な分子の構造解析においても有用なツールとなり得る。その威力が大いに発揮されたのが、我々が取り組んできたインテグリン/ラミニンに関する構造研究である、ラミニン受容体インテグリンは、基底膜中のラミニンとの結合を介した細胞接着により、増殖や遊走など、生体にとって重要な様々な細胞活動をコントロールしている。その細胞外領域は約200 kDaと巨大で、しかもマルチドメインの糖タンパク質であるため結晶化が非常に難しく、長年の間、我々は結晶化に苦労していた。しかし、抗インテグリン抗体のFv-claspを結晶化シャペロンとして応用したところ、ついに結晶が得られ、構造決定に成功した。さらに,インテグリン-ラミニン複合体については、クライオ電子顕微鏡観察に適した試料になるように、2種のFv-claspを結合させることで構造を安定化させると同時に分子量を増大させた。この試料についてクライオ電子顕微鏡画像の収集および単粒子解析を行った結果、原子モデルの構築が可能な3.9Å分解能の密度マップが得られた。これにより、ラミニン結合前後のインテグリンの構造が初めて明らかになり、インテグリンによるラミニン認識機構の構造基盤を得ることに成功した。