10:00 AM - 10:15 AM
[S01-03] Comparison of Stress Tensor Inversion Methods Using Seismological Data
観測データを基に地殻の応力状態を推定する応力インバージョンは、地質学的データ(断層面と条線の方向)を解析することからスタートしたが、その後、地震学的データの利用へと、その応用が大きく広がっている。しかし、地震学的データを用いた応力インバージョンにはいくつかの手法があり、それぞれの手法がどのような関係にあるのかが明らかでなかった。我々は、各手法が依って立つ原理に立ち戻り、その違いや特徴について理解を深めたので、ここに報告する。なお、詳細については、「新学術領域研究:地殻ダイナミクス」に関する地学雑誌の特集第1号(2019年10月号)に掲載される「地震学的データを用いた応力インバージョン」(著者:岩田、吉田、深畑)を参照して頂きたい。
地震学的データを用いた応力インバージョンは、用いるデータの違いにより、3種類に大別される。メカニズム解から得た滑りデータを用いる「滑りデータインバージョン」、P波初動の極性データを用いる「P波初動データインバージョン」、地震のCMT解を用いる「CMTデータインバージョン」である。
滑りデータインバージョンとP波初動データインバージョンは、「ある面に対する滑りは、その面内において剪断応力が最大となる方向(接線応力方向)に生じる」とするWallace–Bott(WB)仮説を共に基本的原理として採用している。加えて「複数の地震を生じさせた応力場が一定」という仮定を補助的に置くことにより、複数の断層滑りデータによる拘束を重ね合わせ,可能な応力場のパラメータ範囲を絞り込む。このように、両者は共通の原理(WB仮説)と仮定(応力場一定)に基づいており、基本的に似た手法と言える。その両者の本質的な違いは,滑りデータインバージョンは,地震波データからいったんメカニズム解を求める一方,P波初動データインバージョンは,メカニズム解を経由せずに応力場を直接推定する点にある。インバージョン解析では,なるべく1次データ(解析上の処理を経ない直接の観測データ)に近いものを解析した方がよいという原則があり,滑りデータインバージョンよりもP波初動データインバージョンの方が,原理的に優れていると考えられる。実際,前者の手法では,断層面の選択および解の誤差評価が重大な問題となるが,後者ではそれらの問題は原理的に克服されている。その一方、滑りデータインバージョンは計算負荷が小さく解析の見通しも良いという利点がある。結局、簡便に解が得られればよい場合には,滑りデータインバージョンで良いと考えられるが、より精確に応力場を求めたい場合にはP波初動データインバージョンを用いるべきだろう。
一方、CMTデータインバージョンは、「地震による応力解放がその場の応力に比例する」(Terakawa & Matsu'ura, 2008, eq. 12)という考えを基本原理に据えている。即ち、前2手法が、地震が断層面上での滑り運動であるといういわばミクロの側面に注目している一方,CMTデータインバージョンは,地震が蓄積された応力の解放過程であるといういわばマクロな側面に注目しているという違いがまず背景としてある。そして、その原理の違いから派生して、CMTデータインバージョンは、応力場一定の仮定が不要、断層面の選択の必要がない、という優れた特質を持つ。その一方で、小地震の解析には不向きなことに加え、弱面の向きの分布が等方的でない場合に上で述べた基本原理が破れることからバイアスを持った解が得られてしまうという問題を抱えている。まとめると、CMTデータが十分にあり,かつ弱面の等方性の近似がよく成り立つあるいは弱面が最適断層面の方向をおおよそ向いていると期待される場合には,CMTデータインバージョンは他の2手法と比べ優れていると考えられる。例えば,日本列島の広域の応力場を推定したTerakawa & Matsu'ura (2010)は,CMTデータインバージョンが得意とする解析であろう。その一方,比較的狭い領域の解析で,CMT解が求まるような比較的大きな地震の発生数が少なかったり,あるいは特定の向きをもつ弱面が偏って発達したりしているような場合には,CMTデータインバージョンはあまり適切でないだろう。さらに,観測点数が少なく,メカニズム解を求めることが難しい場合には,P波初動インバージョンが優れていると考えられる.
地震学的データを用いた応力インバージョンは、用いるデータの違いにより、3種類に大別される。メカニズム解から得た滑りデータを用いる「滑りデータインバージョン」、P波初動の極性データを用いる「P波初動データインバージョン」、地震のCMT解を用いる「CMTデータインバージョン」である。
滑りデータインバージョンとP波初動データインバージョンは、「ある面に対する滑りは、その面内において剪断応力が最大となる方向(接線応力方向)に生じる」とするWallace–Bott(WB)仮説を共に基本的原理として採用している。加えて「複数の地震を生じさせた応力場が一定」という仮定を補助的に置くことにより、複数の断層滑りデータによる拘束を重ね合わせ,可能な応力場のパラメータ範囲を絞り込む。このように、両者は共通の原理(WB仮説)と仮定(応力場一定)に基づいており、基本的に似た手法と言える。その両者の本質的な違いは,滑りデータインバージョンは,地震波データからいったんメカニズム解を求める一方,P波初動データインバージョンは,メカニズム解を経由せずに応力場を直接推定する点にある。インバージョン解析では,なるべく1次データ(解析上の処理を経ない直接の観測データ)に近いものを解析した方がよいという原則があり,滑りデータインバージョンよりもP波初動データインバージョンの方が,原理的に優れていると考えられる。実際,前者の手法では,断層面の選択および解の誤差評価が重大な問題となるが,後者ではそれらの問題は原理的に克服されている。その一方、滑りデータインバージョンは計算負荷が小さく解析の見通しも良いという利点がある。結局、簡便に解が得られればよい場合には,滑りデータインバージョンで良いと考えられるが、より精確に応力場を求めたい場合にはP波初動データインバージョンを用いるべきだろう。
一方、CMTデータインバージョンは、「地震による応力解放がその場の応力に比例する」(Terakawa & Matsu'ura, 2008, eq. 12)という考えを基本原理に据えている。即ち、前2手法が、地震が断層面上での滑り運動であるといういわばミクロの側面に注目している一方,CMTデータインバージョンは,地震が蓄積された応力の解放過程であるといういわばマクロな側面に注目しているという違いがまず背景としてある。そして、その原理の違いから派生して、CMTデータインバージョンは、応力場一定の仮定が不要、断層面の選択の必要がない、という優れた特質を持つ。その一方で、小地震の解析には不向きなことに加え、弱面の向きの分布が等方的でない場合に上で述べた基本原理が破れることからバイアスを持った解が得られてしまうという問題を抱えている。まとめると、CMTデータが十分にあり,かつ弱面の等方性の近似がよく成り立つあるいは弱面が最適断層面の方向をおおよそ向いていると期待される場合には,CMTデータインバージョンは他の2手法と比べ優れていると考えられる。例えば,日本列島の広域の応力場を推定したTerakawa & Matsu'ura (2010)は,CMTデータインバージョンが得意とする解析であろう。その一方,比較的狭い領域の解析で,CMT解が求まるような比較的大きな地震の発生数が少なかったり,あるいは特定の向きをもつ弱面が偏って発達したりしているような場合には,CMTデータインバージョンはあまり適切でないだろう。さらに,観測点数が少なく,メカニズム解を求めることが難しい場合には,P波初動インバージョンが優れていると考えられる.