Seismological Society of Japan Fall Meeting

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Poster session (Sept. 16th)

General session » S03. Crustal Deformation, GNSS, Gravity

S03P

Mon. Sep 16, 2019 5:15 PM - 6:45 PM ROOM P (International Conference Halls II and III)

5:15 PM - 6:45 PM

[S03P-14] Estimation on fault slip distributions through viscoelastic inversion using Reversible-jump MCMC

*Fumiaki Tomita1, Takeshi Iinuma1, Ryoichiro Agata1, Takane Hori1 (1. Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)

地殻変動観測データを用いた断層すべり分布の推定には,断層すべりの平滑化条件を課した最小二乗法が行われ,その平滑化度合いを調整するハイパーパラメータをABICなどの基準により決定することが一般的である [e.g., Yabuki & Matsu’ura, 1992].しかし,地震時すべり分布と地震後すべり分布を同時に推定する粘弾性インバージョン [Tomita et al., 2018] では,すべり量のパラメータ数が求めたい時間窓の数に比例して増大するうえ,ハイパーパラメータを平滑化条件のみならず観測データの重みにも与える必要があり,その数も時間窓の数だけ増大するために,グリッドサーチ的にハイパーパラメータを最適化する従来の手法では計算コストが極めて高くなってしまう.また,すべり量が物理的にありえない値を取ることを避けるため,解の非負拘束を課した最小二乗法もしばしば行われるが,非負拘束を課した場合にはABICが解析的に正しく計算できないことに加え [Fukuda & Johnson, 2008],計算コストが通常の最小二乗法に比べて劇的に増大する場合がある.

本研究では,多時間窓の粘弾性インバージョンでも効率的に解を得るため, Reversible-jump MCMC(Rj-MCMC [Green, 1995])の適用を試みる. MCMCは,ハイパーパラメータも通常のパラメータと同様に自動的に探索可能な手法であり,ハイパーパラメータを探索するか否かで計算コストは大きく変わらない.一方で,通常のパラメータ数自体が増大しすぎると(例えば,断層すべりのインバージョンで小断層の数が数百個を超えるような場合)探索に長時間を要してしまう.そこで本研究では,未知パラメータの数も同時に探索することで,最小限の未知パラメータ数で計算可能なRj-MCMCによる解析が有用かどうかを検討する.

本研究では,Bodin & Sambridge [2009]と同様にVoronoi cellを用いた空間分割を行い,彼らの定式化に沿って解析を行なった.Rj-MCMCの空間分割により,平滑化のハイパーパラメータは不要となるため,各観測期間での観測データの重み支配するハイパーパラメータのみを各cellでのすべり量と同時に推定した.Rj-MCMCでは,空間分割が局所解に陥ることを避けるため,最適化手法であるSimulated Annealing (SA) [e.g., Andrieu et al. 2000] や,複数の連鎖によるParallel Tempering (PT) [e.g., Dettmer et al., 2014] を採用することが多い.今回は,SAによるRj-MCMCを短い連鎖(3×104)で実行することで最適化を試みた.その際,入力データとしてBootstrap法による複数のレプリカを用いることで,より局所解の影響の少ないPTの結果に近く,かつ容易に誤差評価が可能になるようにした.1つのレプリカごとに連鎖の終わりの2000個をサンプルし,50個のBootstrapレプリカを用意することで,最終的なサンプル数は1×105となった.

複数の断層すべりパッチからなる地震時すべり分布と地震後すべり(余効すべり)分布を仮定してSyntheticデータを作成し,Rj-MCMCによる粘弾性インバージョンですべり分布が再現できるかを検討した.沈み込み帯プレート境界断層を模した,傾斜角15度・幅300 km・長さ500 kmの断層面を仮定し,20 km × 20 kmの小断層を配置した.Syntheticデータ,およびGreen関数の計算には,Fukahata et al. [2005; 2006] による二層粘弾性構造を仮定した計算プログラムを用いた.計算する時間窓は,地震時1つと地震後3つの計4つであり,地震後の時間窓は全て1年間分を仮定した.観測点配置は,粘弾性インバージョンの効力の検証も兼ねて,地震時では沈み込み帯における陸域のみとし,地震後には海域の観測点を追加した状況を仮定した.地震時の断層すべりで2成分,地震後の断層すべりでdip方向のみの1成分を未知パラメータとして推定すると同時に,これらの合計5成分についてそれぞれ断層面の空間分割を行なった.結果として,Rj-MCMCによる粘弾性インバージョンにより,概ね仮定した断層すべりの特徴を再現することに成功した.空間分割によって,元々1875個あった未知パラメータが50個程度に縮約された.ただし,この空間分割数は,仮定したすべりパッチの配置によって変わることは留意する必要がある.

次に,2011年東北沖地震時の変位データにRj-MCMCによるインバージョン手法を適用した.実データに対して粘弾性インバージョンを行うためには,詳細な粘弾性構造に基づく粘弾性Green関数が必要となるため,今回は地震時変位のみを用いて地震時すべり分布の推定を行なった.結果として,地震時すべり分布は25個程度の未知パラメータで表現された.得られたすべり分布は同様の観測データを用いて求められた既存の研究結果 [e.g., Iinuma et al., 2012] と似たような特徴を示し,宮城県沖の海溝近傍で50 m程度の地震時すべりを示した.

今後,断層すべり分布を推定し,誤差評価を行う上でのレプリカ数の設定や各レプリカでの連鎖数,あるいはPTの適用の必要性などを検討していく必要があるものの,上記のSyntheticテストや実観測データの適用結果から,粘弾性インバージョンを行う上でRj-MCMCの活用は有用であると言える.