Seismological Society of Japan Fall Meeting

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Room C

General session » S04. Tectonics

[S04]PM-2

Tue. Sep 17, 2019 4:30 PM - 5:00 PM ROOM C (Research Bldg No 8 NS Hall)

chairperson:Naoki Uchida(Graduate School of Science Tohoku University), Hiroshi Sato(Earthquake Research Institute, The University of Tokyo), Atsushi Nozu(Port and Airport Research Institute)

4:45 PM - 5:00 PM

[S04-02] 3-D thermal modeling associated with subduction of the Philippine Sea plate along the Ryukyu Trench

*Nobuaki Suenaga1, Shoichi Yoshioka2,1, Yingfeng Ji3,4 (1. Department of Planetology, Graduate School of Science, Kobe University, 2. Research center for Urban Safety and security, Kobe University, 3. Center of Excellence in Tibetan Plateau Earth Science, Chinese Academy of Sciences, 4. Key laboratory of continental collision and plateau uplift, Institute of Tibetan Plateau, Chinese Academy of Sciences)

1. はじめに
 琉球海溝の沈み込み帯では、短期的スロースリップイベント(Nishimura, 2014)や深部低周波地震(Ando et al., 2012)、浅部超低周波地震(Nakamura et al., 2015)などのスロー地震が観測されている。その分布の特徴のひとつとして、沖縄本島周辺と八重山諸島周辺下のプレート境界面上で発生している短期的スロースリップイベント及び深部低周波地震の深さが両地域で異なっていることが挙げられる。そこで、本研究では、沖縄本島から八重山諸島周辺を含む3次元領域をモデル化し、琉球海溝からのフィリピン海プレートの沈み込みに伴う温度場及び流れ場、さらには相図から得られるスラブ由来の脱水について数値シミュレーションを行い、観測された地殻熱流量のデータを用いて現実的なモデルを構築し、スロー地震の発生との関連性について議論した。

2. モデル設定
 数値計算では、プレート回転モデル(Mathews et al., 2016)及び海溝軸の運動モデル(Heuret and Lallemond, 2005)を参照して、フィリピン海プレートの沈み込み史を導入し、過去15Myrの流れ場及び温度場を時間発展問題として求めた。x, y, z軸方向に対して、それぞれ、モデルサイズは500 km, 800 km, 300 km、グリッド間隔は10 km, 10 km, 5 kmとした。流れ場の境界条件は、+x, -x, +y, -y, -zの境界面では流れは透過条件とし、+z軸の境界面では剛体(付加体、大陸プレート)が存在するため、流れは生じないものとした。温度場の境界条件は、+x, +y, -y, -zの境界面では断熱条件を与え、-xの境界面の温度はプレート冷却モデル(McKenzie, 1969)を用い、沈み込むフィリピン海プレートの海溝軸上の年齢の変化に応じ、各タイムステップで深さの関数として温度分布を与えた。+zの境界面の温度は0℃と仮定した。また、琉球海溝には過去に海溝の後退が起こった期間があることが知られているが、その詳細はわかっていない。そこで、数値計算から得られた地殻熱流量と観測データが最もよく一致するような、海溝の後退期間と後退速度をグリッドサーチで求めたところ、それぞれ5 Ma~0 Ma、2.0 cm/yrと求まった。

3. 結果と考察
 最終的に得られた現在(計算終了時)のシミュレーション結果から、モデル領域内で沖縄本島から八重山諸島へと南西方向に行くにしたがって、プレート相対運動速度が速くなることにより、プレート境界面での温度分布が低温化する傾向がみられた。この効果により、八重山諸島周辺では沖縄本島周辺に比べて等深度でのプレート境界面温度が低くなり、どちらの領域下でも短期的スロースリップイベント及び深部低周波地震の発生域での温度は約500-650℃と推定された。一方、Ji et al.(2016)は同様の手法を用いた3次元熱対流数値モデリングにより、フィリピン海プレート上面で発生していると考えられている四国西部と豊後水道下での深部低周波地震の発生領域の温度をそれぞれ400~700℃、350~500℃と見積もった。本研究で得られた上記の温度範囲は、四国西部と豊後水道の中間程度となった。プレート境界面上では、350~450℃の範囲で不安定すべりから安定すべりへ移行する(Hyndman et al., 1993)と考えられており、本研究で得られた温度範囲はこの遷移領域の温度範囲より200℃程度高くなった。
 また、本数値計算で得られた温度―深さの関係と、海洋地殻中の含水MORBの相図(Omori et al., 2009)を用いて、スラブ上面付近の含水量分布を求めたところ、沖縄本島付近下で、epidote eclogite相からamphibole eclogite相への相転移(含水量変化:約1.4 wt%)が、八重山諸島付近下で、amphibole eclogite相からeclogite相への相転移(含水量変化:約0.7 wt%)がみられた。また、フィリピン海プレートの沈み込み方向の単位距離当たりの脱水勾配をみると、八重山諸島付近の短期的スロースリップイベント発生域で最大の脱水勾配(約0.4-0.5 wt%/km)が得られた。以上より、琉球海溝では、スラブ上面付近の含水MORB由来の脱水がプレート境界面上のスロー地震の発生に寄与していると考えられる。