Seismological Society of Japan Fall Meeting

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Poster session (Sept. 17th)

General session » S06. Crustal Structure

S06P

Tue. Sep 17, 2019 5:00 PM - 6:30 PM ROOM P (International Conference Halls II and III)

5:00 PM - 6:30 PM

[S06P-11] Searching for the Moho of the Philippine Sea plate and slab beneath Kanagawa, central Japan

*Yuki Abe1, Ryou Honda1, Yohei Yukutake1 (1. Hot Springs Research Institute, Kanagawa Prefectural Government)

はじめに

神奈川県から静岡県にかけての地域は、フィリピン海プレートと北米プレートが収束し、狭い範囲で沈み込みから衝突へと収束の様式が変化する。私たちは、この地域のテクトニクスを理解するために地震波速度不連続面の検出と、その3次元形状の推定を試みた。具体的には、まず神奈川県とその周辺地域(解析領域は北緯34.5°-35.8°、東経138.3°-140.0°)で観測された遠地地震波形をもとに多数のレシーバ関数を作成した。そして、この地域の3次元速度分布(Matsubara and Obara, 2011, Earth Planet Space)を仮定してそれらを深さ変換し空間的に平均した。その結果、解析領域の一部でフィリピン海プレート及びスラブの地殻部分の底面(海洋モホ面)に対応すると解釈できる不連続面を検出することができた。しかし、横浜市や都心部を含む解析領域東部、および丹沢山地を含む解析領域中部では不連続面を検出することができなかった(安部ほか, 2017, 地震学会)。

その後、観測点数が不足していた解析領域東部の不連続面の検出のために、MeSO-netの観測データから作成したレシーバ関数を追加した。しかし、J-SHISの深部基盤構造を仮定してレシーバ関数を合成したところ、レシーバ関数に現れる顕著なピークは、その地域に分布する極めて低速度な表層に起因することが明らかになり、レシーバ関数から深部の不連続面の位置を推定することが困難であることがわかった(安部ほか, 2018, 地震学会)。

解析領域の海洋モホ面の深度について把握できる範囲を広げるためには、海洋モホ面のうちこれまで検出できていない部分を、新たに別の手法を適用することによって検出する必要がある。

そこで本研究では、遠地地震のS波の波形を用いたレシーバ関数解析を行った。S波レシーバ関数は、S波到達前後の地震波形の鉛直成分をラディアル成分でデコンボルブして得られる。これにより先駆波として到達するSp変換波を検出することができる。多重反射波はS波より遅れて到達するため、P波レシーバ関数とは違い、S波レシーバ関数を用いると変換波を多重反射波と分離して検出することができる。よって、S波レシーバ関数を用いれば、低速度の表層が存在する領域でも深部で変換されたP波が検出される可能性がある。また、P波レシーバ関数よりもS波レシーバ関数の方が、同じ深さではより遠い位置にある変換点で励起された変換波を検出することができ、S波レシーバ関数が追加されれば不連続面を検出できる範囲が広がる。



解析

2007年から2017年までの期間に、神奈川県とその周辺で得られた遠地地震(震央距離30°-90°、M6以上)のS波の波形(S波到達75秒前から50秒後まで)を用いてレシーバ関数を作成した。レシーバ関数の作成には時間拡張型マルチテーパ(Shibutani et al., 2008, Bull. Seismol. Soc. Am.)を用い、定数が1.0のガウシアンローパスフィルタ(カットオフ周波数約0.2 Hzに対応する)を適用した。作成したS波レシーバ関数をMatsubara and Obara (2011)により推定された速度分布を仮定して深さ変換し、空間的に平均して断面図を作成した。



結果とまとめ

解析領域東部で得られるデータではシグナルに比べてノイズの影響が大きく、良好なS波レシーバ関数が十分得られていない。そのため、東経139.5°-140.0°の範囲には、依然として海洋モホ面に対応すると解釈できる不連続面は検出できていない。また、丹沢山地付近の40 kmよりも深部では平均できるS波レシーバ関数の本数が少なく、海洋モホ面の検出には至らなかった。しかし、東経139.3°-139.5°の範囲では、新たに30-40 kmの深さに海洋モホ面に対応すると考えられる連続したピークが検出できた。今後は、解析データを増やしてより広範囲の不連続面の検出を試みるとともに、S波レシーバ関数による不連続面検出の信頼性や精度について検討する。



謝辞

防災科学技術研究所、東京大学、気象庁の地震波形データを使用させていただきました。本研究の一部は、首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクトの助成を受けて実施いたしました。記して感謝いたします。