Seismological Society of Japan Fall Meeting

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Poster session (Sept. 17th)

General session » S06. Crustal Structure

S06P

Tue. Sep 17, 2019 5:00 PM - 6:30 PM ROOM P (International Conference Halls II and III)

5:00 PM - 6:30 PM

[S06P-12] Interpretation of Seismic Anisotropy Structure beneath the Tokyo Metropolitan Area on the Basis of the Geological Structure

*Motoko ISHISE1, Shinichi SAKAI1, Aitaro KATO1 (1. Earthquake Research Institute, The University of Tokyo)

1 はじめに

地震波伝播速度の方向依存性を総称して「地震波異方性」というが,その性質は地球内部の至る所で確認されており,流れ場,応力場,地質構造との密接な関係が示されている(マントル[e.g., Hess, 1964];地殻 [e.g., Kaneshima, 1990];付加体[e.g., Ishise and Oda, 2008]; 堆積層 [e.g., Tonegawa et al., 2015]).これらの観測事実は,地震波異方性の情報が沈み込み帯のダイナミクスやテクトニクスの解釈と理解に非常に有用であることを示している.そこで,我々は,そのテクトニクスやダイナミクスに多数の未解明点が残る関東地方について,地震波異方性の情報を活用した地殻およびプレート構造の解釈に着手した.本発表では,最近,我々が得た地震波異方性トモグラフィー結果 [石瀬・他,2009] のうち,深さ45km以浅の構造を丹念に分析し,関東平野の厚い堆積層に埋もれた先新第三系基盤岩類の深部構造に着目した地殻構造について考える.



2 P波方位異方性速度構造の特徴

地震波異方性速度構造として,石瀬・他 [2019 JpGU] による首都圏を中心とした関東地方における3次元P波方位異方性速度構造を用いる.これは,P波走時データ(手動読み取り値)を用いたトモグラフィー解析で得られた構造であり,等方的なP波速度の3次元構造とP波方位異方性の3次元分布から成る.解析に使用した観測点は,既存の基盤観測網の観測点に加え,首都圏での観測点間隔が2-4㎞という非常に稠密な観測網のMeSO-netの全観測点を使用した.従って,本研究の基となる構造は,等方性構造・異方性構造ともに,既存の地震波速度構造と比べて高精度化かつ高解像度化されたイメージとなっている.特に,浅部構造は著しく高度化されたと考えられる.

石瀬・他 [2019 JpGU] の地震波異方性速度構造における地殻相当領域(深さ45km以浅)では以下のような特徴が見られる:等方性速度については,①低速度異常領域・高速度異常領域が,共に,概ねE-W方向に伸びる帯状の広がりを持つ.②東京湾周辺において,深さ10-15kmで低速度異常領域が広く分布するが,深さ20㎞以深では高速度異常領域が卓越してくる.地震波異方性については,③現在の沈み込み口(相模トラフ)から東京湾付近における深さ約40km以浅では,地震波異方性の方向(地震波が速く伝播する方向)が現在および過去の沈み込み口の走向とほぼ平行(WNW-ESEからNW-SE)に配向している.ただし,④深さ15,20,25㎞においては,WNW-ESE方向の異方性が,フィリピン海スラブの上面等深度線 [Sato et al., 2005; Sakai et al., 20**]とほぼ平行に,その北側に局所的に帯状分布する.



3 地震波異方性構造と先新第三系基盤岩類の分布の関係

関東平野の下の基盤構造は,関東平野の厚い堆積層(第三系・第四系)に覆い隠されており基盤の深部構造はよくわかっていない.しかし,西南日本弧外帯で見られる四万十帯,秩父帯,三波川帯,領家帯,足尾帯といった古い付加体が,WNW-ESEの走向を持つ帯状の地体構造として分布していることが,大深度ボーリングや物理探査のデータから示されている [e.g., 林・他,2006].

 そこで,これらの地体構造の存在を考慮して地震波異方性構造を見ると,上の①および③で述べた構造の配向方向に関する特徴は,古い付加体の構造の発達過程を反映していると解釈される.例えば,深さ10㎞の等方性速度構造には,林・他 [2006] による仏像構造線(四万十帯と秩父帯の境界)の位置と良く対応した低速度異常領域と高速度異常領域の構造境界が見られる.また,より深部の深さ15,20,25㎞では,帯状に局所化したWNW-ESE方向の異方性領域の存在が,古い付加体の地体構造が少なくとも深さ25kmまでは及んでいることを示唆している.地震波異方性を考慮することで,これまでは深さ5 km程度までしか分かっていなかった深部基盤構造について新たな知見が得られた.さらに,古い付加体の分布とスラブの等深度線の平行性からは,両者が関係していることが推測される.首都圏下のフィリピン海スラブは大陸プレートの地殻,すなわち古い付加体と接していることが構造探査から示されているので [Sato et al., 2005],付加体の底の検出がフィリピン海スラブの上面位置の特定に繋がると考えられる.そこで,古い付加体がWNW-ESEからNW-SE方向の異方性を持つとすると,等方性速度構造では違いの見えない場所に異方性の方向が変化する境界を特定できた.この境界はプレート境界型の地震の分布とほぼ一致しており,フィリピン海スラブの上面であることを示すことができた.