5:00 PM - 6:30 PM
[S06P-19] Relationship between the Moho discontinuities and deep low-frequency earthquake activity beneath Shikoku, southwest Japan
はじめに
西南日本では、活発な深部低周波地震活動が帯状に分布しているが、その活動度は一様ではない。四国西部は、西南日本全体でもっとも活動度が高い地域として知られている反面、四国東部の活動度はその1/3~1/5程度であり(Annoura et al., 2016; GRL)、その活動域も香川県域と徳島県域の2ヶ所に分散する。このような特徴の違いは地下構造の違いに起因すると考えられるが、特に四国東部から紀伊水道周辺においては、Ide et al. (2010; GRL) により示されたフィリピン海プレート断裂の可能性を考慮するか否かを含め、現状においても明瞭な構造モデルが得られているとは言い難い。今回、我々は、四国東部地域を対象とし、当該地域内に設置された定常観測点および臨時観測点で得られたレシーバ関数 (RF) に基づいて本地域下のモホ面と思われる明瞭な不連続面の特徴を精査するとともに、深部低周波地震活動との対比を行った。
データと解析方法
解析には、四国東部およびその周辺に設置されている定常観測点ならびに臨時観測点のデータを用いた。USGS のPDEカタログから、Mw5.8以上、震央距離30°から90°の遠地地震を抽出し、各観測点における直達P波の理論到着時刻の30秒前から90秒後までの遠地地震波形記録を切り出した。この中から十分なS/Nを有する波形を選別したのち、RFを推定した。この際、fc = 1.5 Hzの低域通過フィルタを適用した。各観測点のRFおいて、正振幅を有するもっとも顕著なPs変換波を含む時間領域に対してharmonic decomposition解析 (Bianchi et al., 2010; JGR) を適用し、その変換波を励起する速度不連続面の傾斜方向を求めた。RFの深度変換には、Matsubara & Obara (2011; EPS) による三次元速度構造を用いた。
結果と議論
解析は観測点ごとに個別に実施したが、解析対象とした顕著な速度不連続面の傾斜方向は以下に示す領域でまとまった特徴を示した。
高知県東部:領域に属する観測点の9割で、西北西から北西傾斜であった。
徳島県南部:領域内の6観測点中5点で、面の傾斜方向が安定して求まらなかった。地表付近の散乱や多重反射が強い、対象とした不連続面が極めて平坦、あるいは複雑な曲面を形成しているなどの可能性があり、精査が必要である。
徳島県北部:領域内の3/4の観測点で南から南南西方向の傾斜を示した。上述の徳島県南部域に近い1点は西南西方向を示した。
愛媛県東部:5観測点中4点で南西傾斜だった。高知県境付近の1点は西傾斜の特徴を示した。
香川県:ほぼ西傾斜の特徴を示したが、香川・徳島県境付近の2点では傾斜方向が安定して求まらなかった。
高知県東部の観測点が示す傾斜方向は既知のプレート傾斜方向と調和的であることから、検出した顕著な不連続面は海洋モホ面と考えられる。一方、徳島県北部や愛媛県東部の観測点が示す傾斜方向は、既知のプレート運動方向やプレートモデルの傾斜方向と一致しない。四国東部における深部低周波地震活動も、四国西部同様、マントルウェッジ先端部直下に分布すると仮定すると、徳島県北部や愛媛県東部で見られる南方向から西方向の傾斜は、陸側モホ面の特徴を捉えている可能性がある。ただし、その場合、その深部に海洋モホ面が存在することが期待されるが、そのような速度境界面からの変換波は検出出来ていない。また、四国西部ではマントルウェッジの蛇紋岩化の進展による速度低下のため、陸側モホ面と海洋モホ面の近接部で陸側モホ面が明瞭な速度境界として検出出来ない領域が存在した。徳島県北部ならびに愛媛県東部で検出した南ないし西傾斜の境界面は、高知県東部で検出した海洋モホ面と非常に近接して存在している。徳島県北部ならびに愛媛県東部の境界面が陸側モホ面だと解釈すると、マントルウェッジの蛇紋岩化は、ほぼ進展していないことを示唆する。この構造的特徴の違いが、深部低周波地震活動度の違いに結びついている可能性がある。
謝辞
本研究には、防災科研Hi-net/F-net観測点のほか、気象庁、産総研VA-net、東大地震研究所、京大防災研究所、高知大による定常観測点ならびに文部科学省委託研究「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」の一環として設置した臨時観測点のデータを使用しました。また、本研究の一部はJSPS科研費 JP16H06475の助成を受けました。
西南日本では、活発な深部低周波地震活動が帯状に分布しているが、その活動度は一様ではない。四国西部は、西南日本全体でもっとも活動度が高い地域として知られている反面、四国東部の活動度はその1/3~1/5程度であり(Annoura et al., 2016; GRL)、その活動域も香川県域と徳島県域の2ヶ所に分散する。このような特徴の違いは地下構造の違いに起因すると考えられるが、特に四国東部から紀伊水道周辺においては、Ide et al. (2010; GRL) により示されたフィリピン海プレート断裂の可能性を考慮するか否かを含め、現状においても明瞭な構造モデルが得られているとは言い難い。今回、我々は、四国東部地域を対象とし、当該地域内に設置された定常観測点および臨時観測点で得られたレシーバ関数 (RF) に基づいて本地域下のモホ面と思われる明瞭な不連続面の特徴を精査するとともに、深部低周波地震活動との対比を行った。
データと解析方法
解析には、四国東部およびその周辺に設置されている定常観測点ならびに臨時観測点のデータを用いた。USGS のPDEカタログから、Mw5.8以上、震央距離30°から90°の遠地地震を抽出し、各観測点における直達P波の理論到着時刻の30秒前から90秒後までの遠地地震波形記録を切り出した。この中から十分なS/Nを有する波形を選別したのち、RFを推定した。この際、fc = 1.5 Hzの低域通過フィルタを適用した。各観測点のRFおいて、正振幅を有するもっとも顕著なPs変換波を含む時間領域に対してharmonic decomposition解析 (Bianchi et al., 2010; JGR) を適用し、その変換波を励起する速度不連続面の傾斜方向を求めた。RFの深度変換には、Matsubara & Obara (2011; EPS) による三次元速度構造を用いた。
結果と議論
解析は観測点ごとに個別に実施したが、解析対象とした顕著な速度不連続面の傾斜方向は以下に示す領域でまとまった特徴を示した。
高知県東部:領域に属する観測点の9割で、西北西から北西傾斜であった。
徳島県南部:領域内の6観測点中5点で、面の傾斜方向が安定して求まらなかった。地表付近の散乱や多重反射が強い、対象とした不連続面が極めて平坦、あるいは複雑な曲面を形成しているなどの可能性があり、精査が必要である。
徳島県北部:領域内の3/4の観測点で南から南南西方向の傾斜を示した。上述の徳島県南部域に近い1点は西南西方向を示した。
愛媛県東部:5観測点中4点で南西傾斜だった。高知県境付近の1点は西傾斜の特徴を示した。
香川県:ほぼ西傾斜の特徴を示したが、香川・徳島県境付近の2点では傾斜方向が安定して求まらなかった。
高知県東部の観測点が示す傾斜方向は既知のプレート傾斜方向と調和的であることから、検出した顕著な不連続面は海洋モホ面と考えられる。一方、徳島県北部や愛媛県東部の観測点が示す傾斜方向は、既知のプレート運動方向やプレートモデルの傾斜方向と一致しない。四国東部における深部低周波地震活動も、四国西部同様、マントルウェッジ先端部直下に分布すると仮定すると、徳島県北部や愛媛県東部で見られる南方向から西方向の傾斜は、陸側モホ面の特徴を捉えている可能性がある。ただし、その場合、その深部に海洋モホ面が存在することが期待されるが、そのような速度境界面からの変換波は検出出来ていない。また、四国西部ではマントルウェッジの蛇紋岩化の進展による速度低下のため、陸側モホ面と海洋モホ面の近接部で陸側モホ面が明瞭な速度境界として検出出来ない領域が存在した。徳島県北部ならびに愛媛県東部で検出した南ないし西傾斜の境界面は、高知県東部で検出した海洋モホ面と非常に近接して存在している。徳島県北部ならびに愛媛県東部の境界面が陸側モホ面だと解釈すると、マントルウェッジの蛇紋岩化は、ほぼ進展していないことを示唆する。この構造的特徴の違いが、深部低周波地震活動度の違いに結びついている可能性がある。
謝辞
本研究には、防災科研Hi-net/F-net観測点のほか、気象庁、産総研VA-net、東大地震研究所、京大防災研究所、高知大による定常観測点ならびに文部科学省委託研究「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」の一環として設置した臨時観測点のデータを使用しました。また、本研究の一部はJSPS科研費 JP16H06475の助成を受けました。