5:00 PM - 6:30 PM
[S07P-07] Comparisons of anisotropic 3D S wave speed models derived from linearized and non-linear inversions of multi-mode surface waves
近年,世界各地の大陸域に展開されている高密度な臨時広帯域地震観測網で記録された中〜長周期表面波の情報を用いて,大陸下のリソスフェアおよびアセノスフェアの高精度な3次元異方的S波不均質構造モデルの復元や内部境界層に関する研究が広く行われている(e.g., Kennett et al., 2013, GJI; Yoshizawa, 2014, PEPI).これらの研究により,クラトンの空間分布に応じた高速度異常や,大陸リソスフェア〜アセノスフェアに見られる異方性の層状分布(e.g., Yuan & Romanowicz, 2010, Nature; Yoshizawa & Kennett, 2015, GRL)などが明らかになりつつある.
表面波の情報を利用するトモグラフィー研究では一般に,逆問題を線形化して反復的にモデルを復元する手法が広く用いられる.例えば,基本モードまたはマルチモードの分散曲線を用いてS波速度を復元する際には,初期モデルを仮定し,その構造変化に対する位相速度の偏微分係数(鉛直感度カーネル)を用いて,速度構造の摂動を求める(e.g., Yoshizawa & Kennett, 2004).このような線形化インバージョン法では,モデルの滑らかさや摂動の大きさなど,先験情報を用いて制約しつつ最適なモデルを復元する.一方,最近の計算機能力の向上により,問題の線形化を一切必要とせず,またモデルパラメータ数も可変とし得る完全非線形な3次元速度構造の復元が実用可能になってきた.そこで,本研究では,同一の表面波分散曲線を利用して,従来の線形化インバージョンによる豪州大陸の3次元S波鉛直異方性モデル(Yoshizawa, 2014)と,完全非線形なインバージョン法による3次元モデルを復元し,これら異なる手法による3次元モデルの比較検討を行う.
線形化モデルでは,Tarantola & Valette (1982)の方法を用いて,初期モデルに対する表面波位相速度の鉛直感度カーネルを利用し反復的に最適モデルを求める.一方,非線形モデルは,trans-dimensional hierarchical Bayesian inversion法により復元する.この手法では,モデルパラメータ数(1次元構造モデルの層数)を可変とし,先験的な拘束条件も不要で,観測データに対して最適な解像度での構造推定が可能である.次元の変化するパラメータ空間の探索には,Reversible Jump Markov Chain Monte Carlo法(Green, 1995, Biometrika)を用いる.さらに,Hierarchical Bayes法(e.g. Malinverno and Briggs, 2004, Geophysics)により,データ誤差がガウス分布に従うと仮定し,その分散も同時に推定してover-fittingを防ぐ.また,十分な精度で事後確率分布を推定するために大量のモデルサンプルが必要となるが,Parallel Tempering法(e.g. Sambridge, 2014, GJI)を用いて,サンプリング効率の向上とパラメータ探索範囲の拡充をはかる.これら線形・非線形のインバージョン手法を用いて,豪州大陸域の各地点におけるレイリー波およびラブ波のマルチモード分散曲線からSV波速度及びSH波速度モデルを復元し,大陸域の3次元S波鉛直異方性分布を復元する.
豪州大陸を東西に横断する鉛直断面の比較から,クラトン域の高速異常など,S波速度分布の特徴的な大規模構造は,線形・非線形のどちらのモデルもよく一致することがわかった.ただし,線形化モデルでは,先験的に与えたモデル共分散行列を通じてS波速度の鉛直方向の滑らかさが制約される一方,非線形モデルでは,モデル次元を自動的に決定するため,より小規模な不均質性の影響が反映される結果が示された.これにより,大陸リソスフェア底面付近の速度変化が,非線形モデルのSV波モデルでは,より急峻に現れる傾向が見られる.この影響は,鉛直異方性パラメータ(SH波とSV波の速度比)の空間分布にも見られ,線形モデルでは,大陸リソスフェア直下の広範な深さ範囲にみられたSH>SVの鉛直異方性が,非線形モデルではやや小規模かつ狭い範囲に見られるようになる.またBayesian inversionに基づく非線形モデルでは,事後確率分布に基づくモデルの誤差分布も推定でき,モホ面以下の上部マントル領域では,特にSV波速度の場合で概ね0.1km/s以下の誤差となり,十分な精度でS波速度モデルが推定できることがわかる.ただし,線形化モデルに比べ,完全非線形モデルの復元には膨大な計算量(数千倍以上のCPU時間)が必要となる.今後,摂動理論等を導入したフォワード計算の高速化等により,更なる計算効率の向上も検討する.
表面波の情報を利用するトモグラフィー研究では一般に,逆問題を線形化して反復的にモデルを復元する手法が広く用いられる.例えば,基本モードまたはマルチモードの分散曲線を用いてS波速度を復元する際には,初期モデルを仮定し,その構造変化に対する位相速度の偏微分係数(鉛直感度カーネル)を用いて,速度構造の摂動を求める(e.g., Yoshizawa & Kennett, 2004).このような線形化インバージョン法では,モデルの滑らかさや摂動の大きさなど,先験情報を用いて制約しつつ最適なモデルを復元する.一方,最近の計算機能力の向上により,問題の線形化を一切必要とせず,またモデルパラメータ数も可変とし得る完全非線形な3次元速度構造の復元が実用可能になってきた.そこで,本研究では,同一の表面波分散曲線を利用して,従来の線形化インバージョンによる豪州大陸の3次元S波鉛直異方性モデル(Yoshizawa, 2014)と,完全非線形なインバージョン法による3次元モデルを復元し,これら異なる手法による3次元モデルの比較検討を行う.
線形化モデルでは,Tarantola & Valette (1982)の方法を用いて,初期モデルに対する表面波位相速度の鉛直感度カーネルを利用し反復的に最適モデルを求める.一方,非線形モデルは,trans-dimensional hierarchical Bayesian inversion法により復元する.この手法では,モデルパラメータ数(1次元構造モデルの層数)を可変とし,先験的な拘束条件も不要で,観測データに対して最適な解像度での構造推定が可能である.次元の変化するパラメータ空間の探索には,Reversible Jump Markov Chain Monte Carlo法(Green, 1995, Biometrika)を用いる.さらに,Hierarchical Bayes法(e.g. Malinverno and Briggs, 2004, Geophysics)により,データ誤差がガウス分布に従うと仮定し,その分散も同時に推定してover-fittingを防ぐ.また,十分な精度で事後確率分布を推定するために大量のモデルサンプルが必要となるが,Parallel Tempering法(e.g. Sambridge, 2014, GJI)を用いて,サンプリング効率の向上とパラメータ探索範囲の拡充をはかる.これら線形・非線形のインバージョン手法を用いて,豪州大陸域の各地点におけるレイリー波およびラブ波のマルチモード分散曲線からSV波速度及びSH波速度モデルを復元し,大陸域の3次元S波鉛直異方性分布を復元する.
豪州大陸を東西に横断する鉛直断面の比較から,クラトン域の高速異常など,S波速度分布の特徴的な大規模構造は,線形・非線形のどちらのモデルもよく一致することがわかった.ただし,線形化モデルでは,先験的に与えたモデル共分散行列を通じてS波速度の鉛直方向の滑らかさが制約される一方,非線形モデルでは,モデル次元を自動的に決定するため,より小規模な不均質性の影響が反映される結果が示された.これにより,大陸リソスフェア底面付近の速度変化が,非線形モデルのSV波モデルでは,より急峻に現れる傾向が見られる.この影響は,鉛直異方性パラメータ(SH波とSV波の速度比)の空間分布にも見られ,線形モデルでは,大陸リソスフェア直下の広範な深さ範囲にみられたSH>SVの鉛直異方性が,非線形モデルではやや小規模かつ狭い範囲に見られるようになる.またBayesian inversionに基づく非線形モデルでは,事後確率分布に基づくモデルの誤差分布も推定でき,モホ面以下の上部マントル領域では,特にSV波速度の場合で概ね0.1km/s以下の誤差となり,十分な精度でS波速度モデルが推定できることがわかる.ただし,線形化モデルに比べ,完全非線形モデルの復元には膨大な計算量(数千倍以上のCPU時間)が必要となる.今後,摂動理論等を導入したフォワード計算の高速化等により,更なる計算効率の向上も検討する.