Seismological Society of Japan Fall Meeting

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Room B

General session » S08. Earthquake Source Processes and Physics of Earthquakes

[S08]AM-1

Wed. Sep 18, 2019 9:15 AM - 10:30 AM ROOM B (Symposium Hall, International Science Innovation Building)

chairperson:Takuji Yamada(Ibaraki University), Nana Yoshimitsu(University of Tokyo)

10:15 AM - 10:30 AM

[S08-22] Possible aseismic phenomena causing the precursory activity and aftershocks of the 2017 M 5.3 Kagoshima Bay earthquake, Kyusyu, SW Japan

*Yoshiaki Matsumoto1, Keisuke Yoshida1, Toru Matsuzawa1, Akira Hasegawa1 (1. Department of Geophysics, Graduate School of Science, Tohoku University, Japan)

地震の発生要因としては,断層上のせん断応力の増加の他に,摩擦強度の低下が考えられる.このことは,地震の発生に間隙水圧の変化が深く関わっていることを示唆する (例えば,Hasegawa, 2017; Hubbert and Rubey, 1959; Nur and Booker, 1972; Sibson, 1992).従って,地下の流体の挙動を調べることは地震の発生メカニズムを考える上でとても重要である. 震源 migration は,地下に存在する流体の移動や面に沿っての非地震性の滑りのような非地震的な現象に起因するとよく説明される.このように,詳細な震源の時空間分布は,地殻や上部マントルで生じている非地震的な現象を調べるための重要な手がかりとなる.

2017 年 7 月 11 日 11:56 (JST) に,鹿児島湾の深さ約 10 km を震源とする M 5.3 の地震が発生した.本震震源の周辺では,前年の2016 年 12 月頃を境に地震活動が活発化していたことがわかっている.本研究では, M 5.3 の地震の前後で発生した地震について,波形相関を用いた精密な震源再決定により求めた詳細な震源分布を用いて,振幅比によって決定されたメカニズム解との比較や本震の断層サイズとの比較等を行うことで,一連の地震活動活発化の原因について調べた.

まず,気象庁一元化震源カタログに記載されている 2010 年1月から2018年4月の期間において鹿児島湾南部の本震震源周辺で発生した地震を対象にして,波形相関を用いることで精密な到達時刻差を求めた.この波形相関を用いて得られた到達時刻差データとカタログ記載の検測値の到達時刻差データに対し, Double-Difference 震源決定法 (Waldhauser & Ellsworth, 2002) を適用した.初期震源としては,気象庁一元化震源カタログデータを用いた.

震源再決定により,気象庁一元化カタログデータでは雲状にばらついていた震源が,複数枚の面上に集中した.それらのうちの主要な面の方向は,気象庁による本震や余震の初動発震機構解や波形の振幅比を用いた手法 (Dahm, 1996) によって推定された多くの余震のメカニズム解の節面の一つと整合的であることから,これらの地震は震源のならぶ面上を破壊したと考えられる.

特に,前駆的活動の震源の多くは1枚の面上に集中し,震源が時間と共に面上を広がるような明瞭な震源 migration の特徴を示した.震源 migration の原因として,非地震性すべり (e.g. Lohman & McGuire, 2007) や流体の移動 (e.g. Parotidis, 2003),地震発生準備過程 (e.g. Kato et al. 2016) 等が考えられているが,この震源 migration は,水頭拡散率が 0.05 (m2/s) の流体拡散モデルによる流体の移動で説明できる. 余震の震源は複数枚の面状構造を示し,その活動が時間とともに浅部から深部へと移動する傾向がみられる.このような深部から浅部へと向かう震源移動の特徴は,流体の関与が指摘されている,東北沖地震後にstress shadowである東北地方中部で発生した群発地震活動の特徴 (Yoshida & Hasegawa, 2018) と良く似ている.

次に,Lin & Shearer (2007) の手法により,波形相関を計算して求めたイベント間の到達時刻差を使用して震源域におけるP波とS波の地震波速度比 Vp/Vs の推定を行った.その結果,前駆的活動について推定した Vp/Vs の値は,早期の余震よりも高い値を示す傾向がみられた.また,本震発生から 20 日以降の余震についての Vp/Vs も前駆的活動と同じような高い値を示した.これらの結果と震源分布や地震活動の時間変化との比較から,Vp/Vs の時間変化は本震発生による流体圧の変化を反映していることが示唆される.以上の結果から,鹿児島湾の地震活動の発生には,流体による関与が考えられる.

さらに,前駆的活動の震源が形成する「面」の中には震源の空白域がみられ,本震震源は空白域の端に位置する.余震の震源もまた空白域を避けるように分布することから,本震の主要なすべり域がこの空白域に対応する可能性がある.スペクトル比法を用いて推定した本震震源スペクトルのコーナー周波数から求めた本震の断層サイズはこの空白域の大きさと整合的であった. このことは,本震のすべり域が空白域に位置することを支持し,断層上の摩擦強度の不均質を示しているのかもしれない.
以上の前駆的活動と余震活動にみられた震源の空白域および震源の migration などの特徴は,次のように考えると説明できるかもしれない.(1) 本震の発生に先立ち既存の亀裂等の弱面に流体が浸入し,弱面の摩擦強度が減少することで,活発な前駆的活動が生じた.そして,流体が弱面に沿って移動することに伴い,前駆的活動の発生場所も徐々に移動した. この際,トリガーされた非地震性すべりや本震の前駆的すべりも生じて地震発生・震源移動に貢献したかもしれない.(2) 前駆的活動がさらに進行し,前駆的活動では地震すべりが生じなかった空白域においてもついに本震すべりに至った. (3) 本震に伴う応力変化により広範囲で余震が生じた.また前駆的活動や本震に関与した流体が複数枚の弱面を伝わりながら浅部へ移動していった結果,震源も深部から浅部へと移動した.