Seismological Society of Japan Fall Meeting

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Poster session (Sept. 18th)

General session » S08. Earthquake Source Processes and Physics of Earthquakes

S08P

Wed. Sep 18, 2019 1:00 PM - 2:30 PM ROOM P (International Conference Halls II and III)

1:00 PM - 2:30 PM

[S08P-06] Detection of small non-double-couple components of tectonic earthquakes: Application to plate boundary earthquakes

*Kazutoshi Imanishi1, Takahiko Uchide1 (1. Geological Survey of Japan, AIST)

テクトニックに発生する地震はダブルカップルで説明できることが理論的に認められてから半世紀が過ぎた。その後、観測データの分析からもこの理論は支持され、ダブルカップルを前提に様々な議論が進められてきた。しかしながら、観測データも充実してきた現代において、「テクトニック地震=ダブルカップル」という常識を再考してみる意義がある。

 我々はこれまで、微小な非ダブルカップル成分であっても十分な精度で推定することを目指し、解析手法の開発に取り組んできた。非ダブルカップル成分を推定する上で一番の障害になってきたのは、グリーン関数の不確実さに起因する見掛けの非ダブルカップル成分の存在である。Dahm(1996)は近接する地震ペアの同一観測点における振幅比をデータとすることで、共通する伝播経路の効果をキャンセルし、グリーン関数を計算せずにモーメントテンソル解を推定する手法(相対モーメントテンソル法)を提案した。この手法は非常に有効であるが、推定されるのはマスター地震のモーメントテンソル解に対する相対値であるため、マスター地震のモーメントテンソル解の精度が十分でないと正確な結果が得られないという根本的な欠点を抱えていた。我々はこの問題点を解決するため、以下の手順による逐次相対モーメントテンソル法を提案した(Imanishi and Uchide, in preparation; 今西・内出, 日本地震学会秋季大会, 2018)。

(1) ある程度拘束できているメカニズム解(初期解)を持つN個の近接地震を抽出する。
(2) 推定対象とする地震(ターゲット地震)を一つ選び、それ以外の地震をマスター地震(N-1個)とし、相対モーメントテンソル法を適用する。ターゲット地震を変えながら同様の計算を行い、全ての地震のモーメントテンソル解を推定する。
(3) 推定された解を新たなモーメントテンソル解(修正解)とし、再び(2)を行う。
(4) 残差の総和に変化が見られなくなるまで(2)、(3)を繰り返す。

重要なポイントは、(2)のステップで、1個のターゲット地震に対して複数のマスター地震を取ることにより、推定精度が十分でないマスター地震の影響を軽減させる効果がある点である。また、逐次的に推定していくことで個々のモーメントテンソル解の推定精度を上げるのと同時に地震間の相対精度も改善させていく効果がある。この方法がうまく機能することは、数値実験で確認済みである。

 本研究ではテクトニック地震の代表例として、茨城県南西部のフィリピン海プレート境界で発生する地震クラスターに適用した。このクラスターは幅10kmほどの線状分布をしており、関東地域で地震が特に多い場所として知られている。予察的な解析として、2010年10月から2018年5月に発生したMj 3.3以上の16イベントを解析対象とした。入力データとして変位スペクトルの低周波レベルから推定したP波とSH波の振幅値を与え、P波については極性がわかるものは極性付きの振幅値とした。逐次法の適用に先立ち、ダブルカップルを仮定したメカニズム解推定を行ったところ、いずれもフィリピン海プレートの沈み込みに調和的な低角逆断層型の解が得られた。P波初動極性は概ね説明できているが、振幅値は若干説明できない地震があることがわかった。次に、このダブルカップル解を初期解とし、逐次法を適用した。ここでは簡単のため、震源モデルとしてshear-tensileモデルを仮定した。このモデルでは、tensile成分(クラックの開口角 α)が非ダブルカップル成分に相当する。ブートストラップ法による誤差評価により、αは数度以内の精度で推定可能であることがわかった。推定されたαはほとんどが±2度以内であり、これらは純粋なダブルカップルの地震と見なせる。一方、推定誤差を考慮しても有意に意味のある正のα(クラックが開くセンス)を持つ地震も複数存在することがわかった。αの空間分布をみると、正のαを持つ地震は地震クラスターの端で起きている傾向が確認できた。クラックの開口は流体の関与が示唆される。クラスターの端は流体が排水されにくく、流体圧が高くなっているのかもしれない。今後クラスター内の多くの地震に適用し、αの時空間分布の特徴を見ていくことで、プレート境界における流体および流体圧の実態が明らかになる可能性がある。


謝辞:解析には気象庁一元化震源ならびに防災科学技術研究所 Hi-net の波形データを使用させていただきました。