1:00 PM - 2:30 PM
[S08P-09] Estimation of source spectra of deep low frequency tremors from waveforms recorded by array observation
1.はじめに
2000年頃から世界各地の沈み込み帯において、深部低周波微動(微動)やスロースリップイベント(SSE)と呼ばれる、通常の地震と比べて低周波の振動やゆっくりとした断層運動といった特徴的な滑り現象が地震学的・測地学的観測によって発見されている(e.g. Obara, 2002; Rogers and Dragert, 2003)。これら2つの現象はプレート境界面およびその周辺でのせん断滑りであると考えられているが、その発生メカニズムについては未だに不明な点がある。
微動の発生メカニズムを解明するため、その震源特性を表す震源スペクトルの推定が試みられている。しかし、そのスペクトルの形状は、高周波数で周波数の-1乗に比例して減衰する例(Ide et al., 2007)と周波数の-2乗に比例して減衰する例(Fletcher et al., 2011; Zhang et al., 2011)の2種類が報告されており、微動の震源スペクトルが高周波数でどのような減衰を示すのかという議論は未だに決着はついていない。
本研究ではアレイ観測で得られた波形データを用いることにより、微動の波形データのS/Nを上げ、震源スペクトルの形状を明らかにすることを目的とする。
2.データ・手法
解析には、産業技術総合研究所によって三重県松阪市飯高の林道に設置された、高密度地震計アレイで観測された速度波形データを利用する。林道は2本がそれぞれほぼ東西方向と南北方向に直交するような形で走っており、アレイを構成する地震計は林道沿いに十字状となるよう50~100 m間隔で計39個設置された。各地震計のサンプリング周波数は200 Hzである。解析期間は2011年02月18日~2016年11月09日までである。イベントは紀伊半島で発生したものを中心に、ハイブリッド法による低周波地震カタログに15個以上のイベントを含むような微動(8個)と、さらに気象庁一元化カタログに含まれる低周波地震(18個)、通常の地震(7個)の3種類を解析した。
微動は2~8 Hzでバンドパスフィルタをかけた速度波形データをセンブランス解析し、S/Nを高めるために波形の到来方向に基づいてスタックを行う。その後、微動の最大振幅を含むような時間窓10秒間の波形を切り出し、オフセット、トレンド処理、時間窓の両端5%にコサインテーパーを施し、時間積分して変位波形にする。変位波形はフーリエ変換して変位振幅スペクトルを得る。イベント時とノイズ時の、変位振幅スペクトルにおける振幅を比較し、イベントの振幅が卓越する1~10 Hzの周波数帯で形状を議論した。非弾性減衰の補正は Yabe and Ide (2014) を参考にして、Q値を300として行った。
3.結果
微動の変位振幅スペクトルは両対数グラフで-2よりも-1に近い傾きを持つ。これは微動の震源スペクトルが高周波数では周波数の-1乗に比例して減衰することを示す。また、低周波地震においても震源スペクトルが周波数の-1乗に比例して減衰することが示された。
一方、通常の地震では、高周波数において変位振幅スペクトルの傾きが-2に近く、ω-2モデル(Aki, 1967)に従う結果となった。
以上の結果から、微動の震源スペクトルは通常の地震の震源スペクトルとは異なる減衰特性を持つことが明らかになった。これは微動の発生メカニズムが通常の地震とは異なることを示唆している。
一方、カスケーディアの微動を扱った研究(Zhang et al., 2011)においては3~8 Hzよりも高周波数側で変位振幅スペクトルが周波数の-2乗に比例して減衰することが報告されている。今後、紀伊半島周辺で発生する微動においてもより広い周波数の範囲で変位振幅スペクトルを推定することを目的に、高周波数帯においてノイズレベルを抑える研究を進めていく予定である。
4.謝辞
本研究を進めるにあたり、気象庁の一元化震源カタログを利用させていただきました。また、ハイブリッド法による震源データは防災科学技術研究所の松澤孝紀博士より提供していただきました。記して感謝いたします。
2000年頃から世界各地の沈み込み帯において、深部低周波微動(微動)やスロースリップイベント(SSE)と呼ばれる、通常の地震と比べて低周波の振動やゆっくりとした断層運動といった特徴的な滑り現象が地震学的・測地学的観測によって発見されている(e.g. Obara, 2002; Rogers and Dragert, 2003)。これら2つの現象はプレート境界面およびその周辺でのせん断滑りであると考えられているが、その発生メカニズムについては未だに不明な点がある。
微動の発生メカニズムを解明するため、その震源特性を表す震源スペクトルの推定が試みられている。しかし、そのスペクトルの形状は、高周波数で周波数の-1乗に比例して減衰する例(Ide et al., 2007)と周波数の-2乗に比例して減衰する例(Fletcher et al., 2011; Zhang et al., 2011)の2種類が報告されており、微動の震源スペクトルが高周波数でどのような減衰を示すのかという議論は未だに決着はついていない。
本研究ではアレイ観測で得られた波形データを用いることにより、微動の波形データのS/Nを上げ、震源スペクトルの形状を明らかにすることを目的とする。
2.データ・手法
解析には、産業技術総合研究所によって三重県松阪市飯高の林道に設置された、高密度地震計アレイで観測された速度波形データを利用する。林道は2本がそれぞれほぼ東西方向と南北方向に直交するような形で走っており、アレイを構成する地震計は林道沿いに十字状となるよう50~100 m間隔で計39個設置された。各地震計のサンプリング周波数は200 Hzである。解析期間は2011年02月18日~2016年11月09日までである。イベントは紀伊半島で発生したものを中心に、ハイブリッド法による低周波地震カタログに15個以上のイベントを含むような微動(8個)と、さらに気象庁一元化カタログに含まれる低周波地震(18個)、通常の地震(7個)の3種類を解析した。
微動は2~8 Hzでバンドパスフィルタをかけた速度波形データをセンブランス解析し、S/Nを高めるために波形の到来方向に基づいてスタックを行う。その後、微動の最大振幅を含むような時間窓10秒間の波形を切り出し、オフセット、トレンド処理、時間窓の両端5%にコサインテーパーを施し、時間積分して変位波形にする。変位波形はフーリエ変換して変位振幅スペクトルを得る。イベント時とノイズ時の、変位振幅スペクトルにおける振幅を比較し、イベントの振幅が卓越する1~10 Hzの周波数帯で形状を議論した。非弾性減衰の補正は Yabe and Ide (2014) を参考にして、Q値を300として行った。
3.結果
微動の変位振幅スペクトルは両対数グラフで-2よりも-1に近い傾きを持つ。これは微動の震源スペクトルが高周波数では周波数の-1乗に比例して減衰することを示す。また、低周波地震においても震源スペクトルが周波数の-1乗に比例して減衰することが示された。
一方、通常の地震では、高周波数において変位振幅スペクトルの傾きが-2に近く、ω-2モデル(Aki, 1967)に従う結果となった。
以上の結果から、微動の震源スペクトルは通常の地震の震源スペクトルとは異なる減衰特性を持つことが明らかになった。これは微動の発生メカニズムが通常の地震とは異なることを示唆している。
一方、カスケーディアの微動を扱った研究(Zhang et al., 2011)においては3~8 Hzよりも高周波数側で変位振幅スペクトルが周波数の-2乗に比例して減衰することが報告されている。今後、紀伊半島周辺で発生する微動においてもより広い周波数の範囲で変位振幅スペクトルを推定することを目的に、高周波数帯においてノイズレベルを抑える研究を進めていく予定である。
4.謝辞
本研究を進めるにあたり、気象庁の一元化震源カタログを利用させていただきました。また、ハイブリッド法による震源データは防災科学技術研究所の松澤孝紀博士より提供していただきました。記して感謝いたします。