1:00 PM - 2:30 PM
[S08P-21] On stability of time-marching schemes for simulation of dynamic rupture using a boundary integral equation method
動的破壊の数値計算において境界積分方程式法(BIEM)は、半解析的であり精度の良い計算が可能であること、境界面のみを離散化すればよいので数値資源的に有利であること、等の利点により現在広く利用されている重要な手法の一つである。空間領域におけるグリーン関数を用いたBIEMは、断層面の複雑な形状を表現する事が可能であり、様々な地球物理学的に重要な問題への応用が可能である。例えば、火山地帯におけるダイクの貫入イベントや水圧破砕、高圧間隙流体の関与や示唆される非ダブルカップル成分に富む(断層の開口が示唆される)地震のモデリングが考えられる。本発表では、我々が断層の開口を許す数値計算を試みる際に問題となった数値振動の増大に関する解析の報告と、数値振動を抑えることのできる時間発展手法の提案を行う。
断層が開口を伴い変位する問題を考える場合、混合モードの破壊を扱う事となる。単純化した2次元問題において、Tada and Madariaga (2001)(T&M)は時空間的に区分的に一様な滑り速度に対するグリーン関数をまとめ、それを用いた時間発展法の性質を調べた。彼らの手法にはhT、etの2つの無次元パラメータが存在する。hTは1時間ステップにS波が進む空間グリッド数であり、etは応力を評価する時点の時間ステップ内での位置(0が過去端、1が未来端)である。彼らは自己相似破壊を計算した際の数値解の振動から、数値計算手法の安定性を定義しパラメータスタディを行った。結果の特筆すべき点として、安定な (hT, et) の領域は複雑な形状を呈しており、安定な数値計算の為にはこれら無次元パラメータのチューニングが必要である事が示された。またこの安定領域は破壊のモードによって異なり、混合モード破壊を考える際に使える共通部分の (hT, et) は大変限られる事となる。更にBIEMの利点の一つとして、大きさの異なる要素を柔軟に用いて数値資源を節約する事が想定されるが、この様な場合に使用可能な (hT, et) が存在するかどうかは自明ではない。数値粘性の導入により数値解の振動発散を抑える手法 (e.g., Kame et al., 2003) が提案されているが、粘性係数の設定等のチューニングが必要となる。
T&Mの意味で不安定な条件で滑り弱化則を用いた動的破壊の計算を行った場合、破壊内部の自由表面的になった部分で、数値振動が指数関数的に増大する。この事から、自由表面のシミュレーションにおいて問題が生じるのではないかと仮説を立てた。2次元問題において線分状の自由表面を離散化し、初期の載荷(変位速度Vをゼロに拘束した場合の応力)を乱数で与えたシミュレーションを行った所、数値解として得られたVの対数増加・減少速度が (hT, et) に依存することがわかった。また全てのモードに関して、この対数増加速度とT&Mの安定性に明確な逆相関が確認された。対数増加速度が負の領域が、T&Mの安定領域に対応する。この事から上の仮説は正しかったと言える。
Noda and Lapusta (2010) は波数空間でのグリーン関数を用いたスペクトル境界積分方程式法(SBIEM)に関して、Lapusta and Liu (2009) の手法を微修正した数値解の振動が軽減される予測子修正子法を提案した。この手法では、応力を定義する時点は時間ステップの過去端(et = 0)に置くが、変位速度履歴として記憶するVは時間ステップの中央で定義される。予測子ステップとしてはT&Mにおける et = 0 と同様の時間ステップを行い、得られたVと1つ過去の時間ステップのVの平均をこのステップ中の変位速度履歴とする。次に修正子ステップとして、更新された履歴を用いて再び時間ステップを行ってより良いVとその履歴を計算し、これらを最終的な計算結果として採用する。本手法の持つ無次元パラメータはhTのみである。パラメータスタディの結果、0.40 ≦ hT ≦ 1.14 の広い条件において全てのモードに対して数値振動の減衰が確認された。数値計算の安定性に関しては、今回調べた自由表面のみならず、断層形状や摩擦構成則に起因する様々な要因が影響を与える可能性がある。今回調べた条件は、滑り弱化則や自由表面を用いる場合の必要条件である。
今回提案する手法では1時間ステップを2段階に分けて行うが、修正子ステップで更新するのが最新の履歴のみであるので、過去の履歴に関する畳み込み積分を行う回数は増加しない。それ故、追加で必要となる計算資源は無視できる量である。本手法は経済的に数値解の質を向上させる事のできる、実用的な提案ではないかと考えられる。
断層が開口を伴い変位する問題を考える場合、混合モードの破壊を扱う事となる。単純化した2次元問題において、Tada and Madariaga (2001)(T&M)は時空間的に区分的に一様な滑り速度に対するグリーン関数をまとめ、それを用いた時間発展法の性質を調べた。彼らの手法にはhT、etの2つの無次元パラメータが存在する。hTは1時間ステップにS波が進む空間グリッド数であり、etは応力を評価する時点の時間ステップ内での位置(0が過去端、1が未来端)である。彼らは自己相似破壊を計算した際の数値解の振動から、数値計算手法の安定性を定義しパラメータスタディを行った。結果の特筆すべき点として、安定な (hT, et) の領域は複雑な形状を呈しており、安定な数値計算の為にはこれら無次元パラメータのチューニングが必要である事が示された。またこの安定領域は破壊のモードによって異なり、混合モード破壊を考える際に使える共通部分の (hT, et) は大変限られる事となる。更にBIEMの利点の一つとして、大きさの異なる要素を柔軟に用いて数値資源を節約する事が想定されるが、この様な場合に使用可能な (hT, et) が存在するかどうかは自明ではない。数値粘性の導入により数値解の振動発散を抑える手法 (e.g., Kame et al., 2003) が提案されているが、粘性係数の設定等のチューニングが必要となる。
T&Mの意味で不安定な条件で滑り弱化則を用いた動的破壊の計算を行った場合、破壊内部の自由表面的になった部分で、数値振動が指数関数的に増大する。この事から、自由表面のシミュレーションにおいて問題が生じるのではないかと仮説を立てた。2次元問題において線分状の自由表面を離散化し、初期の載荷(変位速度Vをゼロに拘束した場合の応力)を乱数で与えたシミュレーションを行った所、数値解として得られたVの対数増加・減少速度が (hT, et) に依存することがわかった。また全てのモードに関して、この対数増加速度とT&Mの安定性に明確な逆相関が確認された。対数増加速度が負の領域が、T&Mの安定領域に対応する。この事から上の仮説は正しかったと言える。
Noda and Lapusta (2010) は波数空間でのグリーン関数を用いたスペクトル境界積分方程式法(SBIEM)に関して、Lapusta and Liu (2009) の手法を微修正した数値解の振動が軽減される予測子修正子法を提案した。この手法では、応力を定義する時点は時間ステップの過去端(et = 0)に置くが、変位速度履歴として記憶するVは時間ステップの中央で定義される。予測子ステップとしてはT&Mにおける et = 0 と同様の時間ステップを行い、得られたVと1つ過去の時間ステップのVの平均をこのステップ中の変位速度履歴とする。次に修正子ステップとして、更新された履歴を用いて再び時間ステップを行ってより良いVとその履歴を計算し、これらを最終的な計算結果として採用する。本手法の持つ無次元パラメータはhTのみである。パラメータスタディの結果、0.40 ≦ hT ≦ 1.14 の広い条件において全てのモードに対して数値振動の減衰が確認された。数値計算の安定性に関しては、今回調べた自由表面のみならず、断層形状や摩擦構成則に起因する様々な要因が影響を与える可能性がある。今回調べた条件は、滑り弱化則や自由表面を用いる場合の必要条件である。
今回提案する手法では1時間ステップを2段階に分けて行うが、修正子ステップで更新するのが最新の履歴のみであるので、過去の履歴に関する畳み込み積分を行う回数は増加しない。それ故、追加で必要となる計算資源は無視できる量である。本手法は経済的に数値解の質を向上させる事のできる、実用的な提案ではないかと考えられる。