Seismological Society of Japan Fall Meeting

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Room B

General session » S09. Statistical seismology and underlying physical processes

[S09]AM-2

Mon. Sep 16, 2019 10:45 AM - 12:00 PM ROOM B (Symposium Hall, International Science Innovation Building)

chairperson:Kazuyoshi Nanjo(University of Shizuoka), Kohei Nagata(MRI)

11:30 AM - 11:45 AM

[S09-08] Temporal change in size distribution of the earthquakes around large earthquakes in the continental crust of Japan

*Kohei NAGATA1 (1. Meteorological Research Institute)

平成28年(2016年)熊本地震以降、被害を伴うような規模の大きな地震が発生した後の、同程度もしくは更に大きな規模の地震に対する備えの重要性について、改めて認識が高まっている。このような大規模な地震発生後には、断層面近傍でGR則のb値が有意に増加する傾向があることが指摘されており、その後の地震活動には、地震の発生頻度の時間変化だけではなく、規模別頻度分布の時間変化が影響する可能性が指摘されている[例えば Gulia et al., 2018, GRL]。そこで、このような局所的な規模別頻度分布の変化が生じることを前提に、大規模な地震発生後の震源周辺のやや広い空間スケールでの規模別頻度分布の変化の傾向を把握し、局所的な規模別頻度分布の変化との関係性を調べるための解析を試みる。

これまでに行った解析では、1997年10月以降、2017年までの気象庁一元化震源を用いて、2004年以降に日本の内陸地殻内で発生したM6.5以上の地震(最大M7.3)を対象に、震源周辺における深さ40㎞以浅の地震活動の規模別頻度分布の変化を調べた。規模別頻度分布の解析には様々な手法が提案されているが、今回は、規模別頻度分布の特徴の変化を調べるという観点から、ノンパラメトリックな手法 [Amorèse, 2007, BSSA]を用いて震源カタログが網羅できている地震のマグニチュードの下限(Mc)を推定し、Mc以上の規模でGR則が成り立っていると仮定した場合のb値を最尤法により推定するとともに、b値から推定される規模別頻度分布と観測された分布が異なるかどうかをKS検定により確認、また、GR則からの分布の逸脱の指標として提案されているη値[宇津、1978, 地震2]を同時に推定した。これらの解析を、対象領域内のすべての規模の震源から抽出した一定数の連続する震源データに順次適用した。

対象地震が周囲の地震活動に影響を及ぼし得る空間スケールとして、地震規模Mとの平均的な関係式[宇津, 1961, 気象庁欧文彙報]を用いて推定した余震域の長径Lを基準とし、対象地震と震央距離が基準以下の震源を抽出し上記手法を適用した結果、対象地震の発生前に比べ、概して発生後のb値が高くなっていることを確認した。変化の様相は対象地震により異なるが、概ね、対象地震発生直後からb値が増加し始め、数か月から1年程度かけて一定の値に落ち着く傾向が見られる。このためb値の比較には、対象地震発生前の中央値と、対象地震発生後ある程度変化が落ち着いた6ヶ月以降の中央値を用いた。b値の増加の程度は、大きいもので0.1程度であった。Mcは規模の大きな地震の発生後に著しく増加し、一定の値に落ち着くまでにある程度の時間を要するが、この時間は上述のb値の増加の時定数に比べると短い。η値は、対象地震発生前後で若干値が変化することがあるものの、概ね1.7~1.9程度の値で顕著な変化は見られていない。このことは、Mc以上の規模別頻度分布が概して上に凸の形状となっていることを示しており、上述のb値の増加がMcの低下に起因する変化ではないことを裏付けている。KS検定の結果、GR則とは有意に異なる規模別頻度分布が、特に対象地震発生直後に多く確認されるが、これらのデータを除いても、上記の結果は変わらない。

上記の結果は、GR則のb値が広域的な応力場の差応力に対応した地域差を持ち、差応力が高いほどb値が低い傾向を持つという先行研究の指摘 [Scholz, 2015, GRL]と調和的に見える。すなわち、地震に伴う震源域周辺での応力降下に対応してb値が増加したとの解釈が可能であり、この場合、b値のやや長期的な遷移過程は、対象地震により解放された応力がその後の余震による応力の再配分により空間的に平滑化されながら新たな定常状態に落ち着いていく過程を観察したものという解釈が可能ではないかと考えている。b値の変化と応力変化の関係を確認するため、震源抽出の基準とする距離を0.71L, 0.5Lとして同様の解析を行ったところ、解析対象範囲を狭めるほどb値の増加量が大きくなる場合もみられたが、対象地震前の規模別頻度分布を推定するための十分な震源データが得られる事例が少なく、明瞭な結果は得られていない。特に、2014年11月の長野県北部の地震(M6.7)に関しては、震央距離0.5L以内の地震について解析すると、本震前後でb値が低下するという他とは逆の結果が得られる。これは、本震の震源付近の群発的な活動の影響で本震前のb値が大きく推定されるのに対し、本震後はそれ以外の活動が規模別頻度分布の大部分を占めることにより相対的に群発地震の影響が低下するためと考えられる。b値の時間変化の調査には、このような空間的な活動の分布の変化の影響等があるため困難を伴うことは既に指摘されている[例えばWiemer et al., 2002, Adv. Geophys]ところではあるが、上記の結果は、このような影響を含むとしても、規模の大きな地震に伴う地域的なb値の増加は考慮に値することを示唆している。

今後、解析対象地震を増やすとともに、対象領域を小領域に分割し、局所的な地震活動の変化が上述の結果とどのように関係しているかという点も含めて報告を行う予定である。