Seismological Society of Japan Fall Meeting

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Room B

General session » S09. Statistical seismology and underlying physical processes

[S09]PM-3

Mon. Sep 16, 2019 4:00 PM - 5:15 PM ROOM B (Symposium Hall, International Science Innovation Building)

chairperson:Takane Hori(JAMSTEC), Hisahiko Kubo(NIED)

4:15 PM - 4:30 PM

[S09-15] Patch distributions of tremors and growth process of ETS.

*Keita Nakamoto1, Yoshihiro Hiramatsu1, Takahiko Uchide2, Kazutoshi Imanishi2 (1. Univ. of Kanazawa, 2. AIST)

はじめに
 深部低周波微動の震源決定手法としてエンベロープ相互相関法やハイブリッド法が一般的に用いられている[Obara, 2002; Maeda and Obara, 2009]. Imanishi et al. [2011]やGhosh et al. [2009]は, アレイ観測を用いることで通常の震源決定手法より高い検出率で微動の震源を決定することができることを示した. 本研究では産業総合技術研究所が紀伊半島に設置したアレイ観測データを用いて微動の震源決定とエネルギー計算を行い, ETSイベントの成長過程についての調査を行った. 本発表では微動の高エネルギーを放出するパッチ分布及びETSの開始位置と停止位置, さらには類似した開始点を持つETSについて, 開始点の浅部に位置する高エネルギーパッチを破壊した時と破壊できなかった時の累積エネルギーの時間変化の違いに焦点を当てて報告する.
データ・解析手法
 解析期間は2011年4月から2015年1月までとした. 使用したアレイの波形データは産業総合技術研究所により観測されたものである. ハイブリッドクラスタリング法[Obara et al., 2011]により決定された震源データに対してクラスタリング処理を行い, 微動が時空間的に集中して発生している時間を特定した. 特定したクラスタは16個であった. 本研究ではこのクラスタの時間をETSイベントの発生時間として解析を行った.
 本研究で用いたアレイによる震源決定手法はセンブランス法である. 震源決定を行う際に仮定したプレート境界モデルと速度構造モデルはShiomi et al. [2006]のプレート境界モデルと気象庁JMA2001速度構造モデル[上野ほか, 2002]である. 紀伊半島の微動発生域に水平方向に2km間隔でグリッドを配置し各グリッドからプレート境界の深さを計算した後, 速度構造に従って波線追跡を行うことにより各グリッドの位置情報と予想されるスローネス情報を紐づけた. それにより各グリッドの位置情報とセンブランス解析結果を直接対応させることが可能である. センブランス解析に使用した周波数帯は2-4Hzであり, 時間窓は1分である. 最大センブランス値が0.3以上のグリッドの位置を微動の震源として決定した. また配置したグリッド領域の端付近に決定されたイベントは解析領域外のノイズの可能性があるため排除した. エネルギー計算手法はMaeda and Obara [2009]の計算式を使用し, 非弾性減衰のパラメーターであるQuality factorは一定値184を仮定した.
結果・考察
 本研究でまず注目すべき点は微動の高いエネルギーを発する領域の空間的な形状(図1)はETSイベントの特徴に関わらずおおよそ不変であったことである. このことは, 髙いエネルギーの微動を発生させる領域はETSイベントの拡大過程の特徴に左右されず, 地域固有の特徴によって決まることを意味する.
 ETSの拡大過程を調べるため, Obara et al. [2011]を参考にし, 一分間に1つ決められる震源に対して1時間の時間窓でクラスタリング解析を行い, 5個以上の震源を持つクラスタに対して重心位置を決める解析を行った. その震源群の重心位置の時間変化から, 基本的にはETSの開始点は微動発生域の深部であり(浅部から開始するものも一部存在), そこから浅部の高エネルギー領域を破壊した後, 走行方向に広がるというETSの特徴的な拡大過程を見ることができた(図2). また微動活動の走向方向の移動は, ある高エネルギーパッチ領域に侵入後, 高エネルギーパッチを破壊させることが出来ない場合に停止する(図3). これはETSの成長過程は各高エネルギーパッチが連動して破壊するか否かが支配している可能性を示唆する.
 アレイの北側の類似点を微動活動の開始点とするETSの累積地震波エネルギーの時間変化を図4に示す. 赤線はアレイ南部に存在する高エネルギーパッチの破壊が生じたETS, 青線はアレイの南部に位置する高エネルギーパッチの破壊が生じなかったETSのものである. この解析結果からは, 浅部の高エネルギーパッチを破壊する場合としない場合では, 累積エネルギーの時間変化の初期部分において明瞭な差は確認できなかった. このことから, ETSの成長過程について微動活動から推定されるETSの初期部分の活動状態からは明らかな予測はできず, ETSの破壊領域浅部にある高エネルギーパッチの応力蓄積状態及びその破壊の有無が決定していると考えられる.
謝辞
 防災科学技術研究所の松澤博士にはハイブリッドクラスタリング法による深部低周波微動の震源データを提供して頂きました. 記して感謝いたします.