Seismological Society of Japan Fall Meeting

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Room B

General session » S09. Statistical seismology and underlying physical processes

[S09]PM-3

Mon. Sep 16, 2019 4:00 PM - 5:15 PM ROOM B (Symposium Hall, International Science Innovation Building)

chairperson:Takane Hori(JAMSTEC), Hisahiko Kubo(NIED)

4:30 PM - 4:45 PM

[S09-16] Spatial properties of slow earthquake activity and its geophysical and geological environment

*Kazushige Obara1 (1. Earthquake Research Institute, the University of Tokyo)

1.はじめに
 スロー地震は異なる滑り速度を持つ様々な現象から構成され、それぞれ特徴的な活動特性を有する。その空間分布は遷移的または不連続に変化する場合があり、いずれも地球物理学的・地質学的発生環境を反映すると考えられる。近年、スロー地震の発生環境について数多くの研究成果が創出され、具体的なイメージができつつある。本講演では、改めてスロー地震活動特性における空間分布の特徴を検討し、支配要因としての発生環境について考察する。

2.Along-strikeセグメンテーション
 スロー地震を構成する各現象は、沈み込みプレート境界面のほぼ同じ深さでalong-strikeに細長く分布し、複数のセグメントに分かれてそれぞれ独立にあるいは相互作用しながら活動を繰り返す。その典型例はETS(Episodic Tremor and Slip)であり、西南日本では約3~6か月、Cascadiaでは約10~20か月の発生間隔を持つセグメントに分かれる。長期的SSEも日向灘から紀伊水道にかけてETSと固着域とのギャップを埋めるように分布し、基本的な活動様式はやはりセグメント化されている。ETSのセグメンテーションの支配要因としては、Cascadiaでは大規模地形標高やスラブから供給されるシリカ量、西南日本ではプレート境界上盤のVp/Vsや減衰異常の岩体(キャップロック)の存在による不均質性が議論されている。最近Ujiie et al. (2018)はETSの周期的発生に関する地質学的証拠を見出し、過去のETS域が地表に露出したと考えられるメランジュ内の多数のshear-veinに残されたquartzの解析から、イベント発生間隔がETSと調和的な数年以内であることを明らかにした。この結果を踏まえると、ETSを構成する短期的SSEは断層帯内部の粘性変形のマクロな描像であり、微動は断層帯内部の多数のveinにおける摩擦破壊と考えることができる。

3.Along-dipの遷移的変化(ETS内)
 ETSは、along-dipの狭い幅でも活動特性が徐々に変化し、浅部から深部に向かって発生間隔が短く、また規模が小さくなる。この傾向は西南日本とCascadiaで共通であり、ETSの普遍的な特徴と考えられる。支配要因としては、温度変化に対応した摩擦強度やシリカ量変化が挙げられる。このような活動特性の深さ依存性に関してはまだ地質学的な証拠は見出されていないが、室内実験では封圧の増加とともにゆっくり破壊の継続時間が短くなるという結果が得られており(Hirauchi & Muto, 2015)、定性的には観測事実と調和的かもしれない。

4.Along-dip不連続的変化(長期的SSEとETS)
 豊後水道では、長期的SSEがETSの上端部の活動を活発化することが知られているが、長期的SSEのすべり分布は深部側のETSとは重なっていないこと(Nakata et al., 2017)から、地質学的環境の不連続のためにすべり速度が急変することが示唆される。東海や四国西部に展開された機動的地震観測アレイを用いたレシーバ関数解析から、ETS及び長期的SSEがそれぞれ、マントルウェッジ及び陸側下部地殻と沈み込むプレートとの境界で発生するイメージが得られている。CascadiaではETSと固着域との間に長期的SSEは検出されず、ギャップのみが存在し、プレート間カップリングは固着域とETS域では高くギャップ域では低いことから、ギャップ域では西南日本と同様に流動則で支配される大陸下部地殻がプレート境界に接すると考えられる。なお、西南日本で長期的SSEが生じる理由としては、陸側下部地殻内のキャップロックや沈み込む海洋プレート内での脱水によって間隙流体圧が増加して断層強度が低下し、準摩擦的挙動を示すのかもしれない。

5.Along-dip不連続的変化(房総SSEと群発地震)
 房総SSEは、発生間隔は数年と長期的SSEと同様であるが、継続時間は数日から数週間と短期的SSEに近く、同じフィリピン海プレート境界で発生する他のスロー地震とは異なる活動特性を示す。また、房総SSEは常にすべり域の下端側に群発地震を伴い、同時に小繰返し地震(RE)も検出されることから、不均質な断層面の一部に準静的すべり域に囲まれた地震性の小パッチが存在すると考えられる。これらのREは、沈み込む海洋地殻の最上部層が剥ぎ取られる底付け作用の進行を表していると解釈され(Kimura et al., 2010)、それに基づくと、房総SSEはその浅部で物質境界に一致していた力学境界からRE発生面に遷移するステップダウンに対応すると考えられる。つまり、プレート最上部層の内部変形が房総SSEの実態であるともいえる。