Seismological Society of Japan Fall Meeting

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Poster session (Sept. 16th)

General session » S09. Statistical seismology and underlying physical processes

S09P

Mon. Sep 16, 2019 5:15 PM - 6:45 PM ROOM P (International Conference Halls II and III)

5:15 PM - 6:45 PM

[S09P-23] Uncertainty quantification via large-scale 4DVar data assimilation for frictional inhomogeneity in a slow-slipping fault

*Shin-ichi Ito1,2, Masayuki Kano3, Hiromichi Nagao1,2 (1. Earthquake Research Institute, The University of Tokyo, 2. Graduate School of Information Science and Technology, The University of Tokyo, 3. Graduate school of Science, Tohoku University)

断層の運動は断層面間に発生する摩擦の特性によって支配され、その動力学は、摩擦力の断層面内速度に対する非線形な依存性によって定性的に説明される。しかしながら、現実の断層運動は、摩擦特性の空間的な不均一性により、空間一様な摩擦特性を仮定した断層運動とは大きく異なる挙動を示す。そのため、そのような複雑な断層運動を数理的に理解するためには、「観測された断層運動が実現するためには摩擦特性の空間分布はどうあるべきか」を推定し、その推定値のゆらぎ(不確実性)を評価することにより、「空間的に不均一に分布している摩擦特性のどの部分が主要な断層運動に寄与しているか」を定量化することが重要な課題となる。

 データ同化は、シミュレーションモデルと観測データをベイズ統計に基づいて融合する計算技術であり、ベイズ事後分布を構成・評価することにより、直接観測できない系の内部状態やパラメータ空間分布などの推定や、その不確実性評価を可能にする。近年、データ同化の元々の土壌であった気象・海洋分野から大きく適用範囲を広げ、固体地球科学現象への応用もかなり浸透してきた。しかしながら、既存のデータ同化手法を固体地球科学で用いられる大規模なシミュレーションモデルに適用する場合、「次元の呪い」により、モデル変数の自由度に対して計算量が組み合わせ爆発的に増大するため、現実的な計算機資源の下で推定値およびその不確実性を正確に評価することが極めて困難になるという問題を抱えている。この問題を解決するため、近年我々は、気象予報における主力のデータ同化手法である4次元変分法(4DVar)を発展させ、次元の呪いに囚われることなく推定値および不確実性を高速かつ高効率に評価する新しいデータ同化法を構築した[1,2]。このデータ同化手法は2nd-order adjoint法と呼ばれるベイズ事後分布の曲率を評価する手法を用いることで、モデル変数の自由度に依存しない計算量での不確実性評価を実現するため、大規模シミュレーションモデルに対しても現実的な計算量でデータ同化を行なうことを可能にする。

 本研究では、この新規データ同化法を、豊後水道スロースリップ発生域を模擬した図(a)に示すような断層面内の運動のみに着目したモデル[3] (以下、断層モデル)に適用し、スロースリップの動力学と摩擦特性の空間不均一性の不確実性との関係を調べる。この断層モデルでは、摩擦則として、固着度合いを表す状態変数と呼ばれる時間特徴量と断層面内速度に依存した速度状態依存摩擦則を用い、状態変数の発展則としてaging則を用いる。さらに、速度状態依存摩擦則に含まれるパラメータを空間に依存した場の変数として扱うことで摩擦特性の空間依存性を表現する。結果としてこのモデルは、速度場+状態変数場+パラメータ場を変数に持つモデルになり、既存のデータ同化手法では取り扱うことが困難な超大規模なシミュレーションモデルとなる。本研究では、この断層モデルのシミュレーションから生成された速度場の時間発展を擬似的なデータとして用いて、上述の新規データ同化法を用いたデータ同化を行ない、図(b)のように、仮定した断層運動が実現するためのパラメータ空間場およびその不確実性を評価する。これにより、スリップの動力学とパラメータ空間場の不確実性の関係を定量化する。我々のデータ同化手法は一般の大規模シミュレーションモデルへの応用が可能であるため、将来的には断層面間の摩擦特性の不均一性だけでなく、そのまわりの地下構造の不均一性も考慮した大規模有限要素モデルなどへの展開が期待できる。

参考文献
[1] S. Ito, H. Nagao, A. Yamanaka, Y. Tsukada, T. Koyama, M. Kano, and J. Inoue, Data assimilation for massive autonomous systems based on a second-order adjoint method, Physical Review E, 94, 043307, doi:10.1103/PhysRevE.94.043307, 2016.
[2] S. Ito, H. Nagao, T. Kasuya, and J. Inoue, Grain growth prediction based on data assimilation by implementing 4DVar on multi-phase-field model, Science and Technology of Advanced Materials, 18, Issue 1, 857-869, doi:10.1080/14686996.2017.1378921, 2017.
[3] K. Hirahara and K. Nishikiori, EnKF estimation of frictional properties and slip evolution on a LSSE fault -numerical experiments-, JpGU2018, SCG53-17, https://confit.atlas.jp/guide/event/jpgu2018/subject/SCG53-17/advanced, 2018.