Seismological Society of Japan Fall Meeting

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Room D

General session » S10. Active Faults, Historical Earthquakes

[S10]AM-1

Wed. Sep 18, 2019 9:15 AM - 10:30 AM ROOM D (International Conference Halls I)

chairperson:Kentaro Imai(JAMSTEC), Takashi Hirai(Graduate School of Environmental Studies, Nagoya University)

9:30 AM - 9:45 AM

[S10-02] Ansei Tokai and Nankai Earthquakes Depicted on Kawaraban Newspapers: Mainly on Those Stored in the Disaster Management Library

*Takashi Hirai1 (1. Graduate School of Environmental Studies, Nagoya University)

1. はじめに
かわら版は, 江戸時代に普及した時事性の高い内容を扱った印刷物であり, 特に幕末のころに質・量ともに飛躍的な発展を遂げた. おりしも, 江戸時代末期は安政東海・南海地震や安政江戸地震をはじめ災害が頻発した時期でもあり, かわら版は当時の災害報道の媒体のひとつとして研究の対象になってきた(たとえば, 北原 [1] など). かわら版は無許可の出版物であり, 発行者や発行時期を詳細に特定できることは少ない. そのため, 歴史地震研究に供する史料としての有用性を担保することは難しい. しかしながら, 当時の人々が震災の状況をどのように把握したか, あるいは, どのように対応したかという観点においては, 見るべきものがあるようにも思われる.
本稿では, 名古屋大学減災連携研究センター古文書勉強会の活動の一環として, 公益社団法人全国市有物件災害共済会防災専門図書館所蔵のかわら版の翻刻を進めていることを紹介し, 特に多数を占める安政東海・南海地震についてのかわら版の内容吟味と利用について報告する.

2. 防災専門図書館所蔵のかわら版
公益社団法人全国市有物件災害共済会防災専門図書館は, わが国で唯一の災害関係の資料を専門に扱う図書館である. 火災や地震をはじめとした災害に関するかわら版も多数収蔵しており, ホームページ上で閲覧することができる [2]. 内容の内訳は, 火災35点, 風水害6点, 地震49点である. 地震の中では1855年安政江戸地震19点, 1854年安政東海・南海地震16点, その他の地震14点である. 名古屋大学減災連携研究センター古文書勉強会では, 安政東海・南海地震に関するものを中心に翻刻を進めており, その成果を名古屋大学減災館の一般公開スペースに展示している. なお, 一部のかわら版は東京大学情報学環の小野秀雄コレクション [3] に同様のものが収蔵されており, 翻刻にあたり参考にした.
先述の通り, 発行者や発行時期を特定できるかわら版は少ないが, 「諸国大地震並大津浪」と「諸国大地震大津波弐編」については, 発災翌月の安政元年十二月二十日までの間に発行されたと推定される. これは, 豊橋市美術博物館所蔵「柴田家文書」にかわら版と同じ文章が引用されており, 末尾に「安政元年十二月廿日写之」とある [4] ことから判明したものである.

3. 利用例
防災専門図書館所蔵のかわら版のひとつ「諸国大地震大津波末代噺」を取り上げる(図1). これは, 安政東海・南海地震による各地の被害状況などを36ますのすごろくに仕立てたものである. 振り出しと上がりはともに大阪であり, 「世直り」や「目出度い」などの文言が多いことから, おそらく大阪で出版されたものであろう(「世直り」または「世直し」は当時近畿地方で唱えられた地震除けの呪文とされる [5]).
著者らは, これをA0サイズの布に印刷し, 名古屋大学減災館の一般公開時間やイベント「キッズデー」において, 実際にすごろく遊びを行った(図2). 各ますに書かれている内容は, そのままでは一般には解読が難しいため, あらかじめ翻刻した資料を作成して配布した. また, 必ず古文書勉強会のメンバーが付き添い, 駒が止まったますごとに解説を行った. 参加者からは, 「止まったますごとの解説があるからおもしろい. 解説カードなどを作るとよいのではないか」などの意見が聞かれた.

4. 課題
今後も引き続き, 防災専門図書館所蔵のかわら版を中心に, 翻刻を進める. 同時に, 新たな史料も発見しつつあるので, これについても翻刻を行う. すごろく「諸国大地震大津波末代噺」については, さらに内容の調査を行い, 解説を充実させていく予定である.

謝辞
本稿の作成にあたり, 防災専門図書館所蔵のかわら版を参照した. 解読にあたっては, 名古屋大学大学院文学研究科・石川寛特任准教授の指導と名古屋大学減災連携研究センター古文書勉強会のメンバーの協力をいただいた. それぞれ, ここに記して感謝の意を表する. なお, 本稿は古文書勉強会の一員でもある元名古屋大学大学院生・森脇美沙氏の報告 [6] をもとに再構成したものである.

参考文献
1) 北原糸子:地震の社会史-安政大地震と民衆-, 吉川弘文館 (2013)
2) 防災専門図書館:火災・地震関係かわら版, https://www.city-net.or.jp/htmls/ (2019年7月17日閲覧)
3) 東京大学情報学環:小野秀雄コレクション, http://www.lib.iii.u-tokyo.ac.jp/collection/ono.html (2019年7月17日閲覧)
4) 平井敬:柴田家文書に記された安政東海・南海地震, 日本地震学会2017年秋季大会, S10-P06 (2017)
5) 武者金吉:地鯰居士雑筆, 地震学会誌11, 2, pp.85-86 (1939)
6) 森脇美沙:防災専門図書館所蔵 災害関係かわら版の減災啓発教材としての活用 -名古屋大学減災連携研究センター古文書勉強会の活動報告-, 中部「歴史地震」研究年報7, pp.169-177 (2019)