Seismological Society of Japan Fall Meeting

Presentation information

Room D

General session » S10. Active Faults, Historical Earthquakes

[S10]AM-2

Wed. Sep 18, 2019 10:45 AM - 12:00 PM ROOM D (International Conference Halls I)

chairperson:Kyoko Kagohara(Faculty of Education, Yamaguchi University), Tetsuro Tsuru(Tokyo University of Marine Science and Technology)

11:45 AM - 12:00 PM

[S10-10] Are "the long-term evaluations of active faults" consistent with the Quaternary crustal movements in the Osaka plain and the Nara basin ?

*Ichiro Kawasaki1 (1. Tono Research Institute of Earthquake Science)

●1970年代の活断層研究の発展期には,大規模活断層の第四紀後半における活動度の等速性が強調された(松田,1977)。しかし,活断層の長期評価を単純に数10万年程度まで線形で外挿すると,等速性の考えや多くの地質学的知見と大きく矛盾するように見える。この矛盾の理由を考えるヒントを得る目的で,上町断層,生駒断層,奈良盆地東縁断層の活断層の長期評価に基づいて累積地震性地殻変動の上下成分を180万年程前まで遡って計算し,間氷期ごとに形成されてきた大阪平野(吉川・他,1987)と奈良盆地(奥村・他,1997)の海成粘土層堆積構造や第四紀基底深度(小池・町田,2001)や,堀家・他(1996)の人工地震探査による地殻構造モデルと比較した。累積地震性地殻変動の計算では,活断層の長期評価に与えられている限りはその断層パラメータを用い,与えられていない場合(主として断層の長さや傾き)は適宜仮定した。計算には,Okada(1985)のプログラムを用いた。
●大阪平野と奈良盆地の海成粘土層堆積構造や人工地震探査の結果などによると,第四紀基底深度は,上町断層西側で1.5km~1.6km,上町断層で0.7km程,東大阪(大阪平野東縁部)で1.6km程,奈良盆地で0.4km程である。
最初のチェックとして,180万年程の累積地震性地殻変動の落差と,第四紀基底深度の落差を比較したが,おおむね調和的である。しかし,深度/高度そのものはまったく調和的でない。それは,弾性論的計算では,縦ずれ断層では,断層ずれの多くは上盤側が受け持ち,下盤側の沈降は小さいからである。
●奈良盆地の海成粘土層堆積構造を見ると,最近80万年程の海成粘土層が欠けている。それは,奈良盆地は,80万年程前以前は,定常的沈降が卓越していたが,80万年程前以降になると定常的沈降が停滞したか,あるいは隆起に転じたことを意味している。吉川・他(1987)の大阪平野の海成粘土層堆積構造も,80万年程以降,堆積速度は遅くなったように見受けられれる。
そこで,堆積速度が変化した時期は80万年前から50万年前まで10万年間隔,それ以前と以降の沈降速度は10m/10万年の間隔で変化させ,「海成粘土層Ma3(86万年程前),Ma6(61万年程前),Ma10(33万年程前)などの堆積時点の深度が100mから0mの間」という拘束条件を満たす解を求めるために試行錯誤を行ったところ,次の「2段階定常的地殻変動説」に至った。
【180万年前から50万年前まで】広域的に70m/10万年程の沈降,
【50万年前から現在まで】広域的沈降は無し。
●この2段階定常的地殻変動と累積地震性地殻変動によって上町断層の下盤側と上盤側の各年代の基底面の深度と地表面の深度を復元すると表1のようになる。<>で括った深度は上記の拘束条件を満たしていないものである。生駒断層下盤側(東大阪)と生駒山,奈良盆地中央部に対してもそれなりにプロセスを復元することができる。もちろん拘束条件に矛盾する点も多々あるが,発表者には,予想外に,上記の海成粘土層構造や先行研究によって推定された古地理とあらまし調和的であるように思われた。
あらましにせよ,調和的であるという事実は,「2段階定常的地殻変動仮説を媒介に,1万年程の証拠によって求められた活断層の活動度が、近似的には,100万年のオーダーまで線形で外挿可能である」ことを示しているように思われる。また,六甲変動は50万年程前頃に始まったとされているが,「断層運動の縦ずれ成分は,50万年程前以前は定常的地殻変動(沈降)によって埋没してきたが,50万年程前以降には地表に顕在化した」ということかも知れない。
もちろん「2段階定常的地殻変動説」による復元案には不確実性は大きいが,定常的地殻変動が無いモデル化や,1段階のモデル化では,海成粘土層の堆積構造を到底説明できないことを強調しておきたい。
●残された主たる問題点は,①断層面の幅と深部の傾斜が不明の場合は適宜仮定したこと,②地殻変動をモデル計算したとき,断層滑りは断層面上で均一としたが,実際には揺らぎがあると考えられること,③断層面の幅が30 kmで,累積断層ずれが1000mだと,弾性歪み0.03になる。こんな大きな歪みは通常の線形弾性理論の適用限界から外れること,④堆積層底部における地層の圧密などは考慮していないこと,⑤定常的地殻変動(速度)が50万年程前頃に変化したのなら,活断層の活動度,従って地震性地殻変動も変化した可能性があることなどであろう。
参考文献
堀家・他,地震第2輯,第49巻,193一203,1996.
小池・町田編,『日本の海成段丘アトラス』,2001.
松田時彦,地団研専報,20,213-225,1977.
岡田篤正,第四紀研究,19,3,263-276, 1980.
Okada,Y., BSSA, 75, 1135-1154, 1985.
奥村・他,地質調査所,51-62,1997.
吉川・他,物理探査学会第77回講演論文集, 114-117, 1987.