11:15 AM - 11:30 AM
[S15-07] Estimation of Inhomogeneous Attenuation Structure, Source and Site Effects of the Western Hokkaido Based on Block Inversion Analysis
1.はじめに
北海道では活火山が存在するため、減衰構造が均質ではない可能性が考えられる。そこで、平成30年北海道胆振東部地震を含む北海道西部で発生した強震観測記録を収集し、震源特性、伝播経路特性、サイト増幅特性をブロックインバージョン解析により推定した。その際、伝播経路特性については空間的な不均質減衰構造を推定した。
2.データセット
K-NET、KiK-net及び泊地震観測点で観測された北海道西部で発生した地震の強震観測記録を収集した。記録の選定条件を以下に挙げる。2018年10月31日までに発生した地震を対象とした。MJは4.5以上とし、震源深さは北海道胆振東部地震の震源域では40 km以浅、その他の領域では30 km以浅とした。ただし、海溝型地震は対象外とした。震源距離は200 km以下とした。K-NET記録は、地盤の非線形化の影響を避けるため最大加速度が三成分ともに200 Gal以下の記録を用いた。KiK-netと泊地震観測点は地中観測記録を用いた。インバージョン結果を安定させるため5観測点以上の記録が得られている地震、5地震以上の記録が得られている観測点を対象とした。観測記録の健全性を確認し、選定した観測記録は、40地震207観測点の2798記録である。
3.解析手法
対象領域に活火山がある場合などは減衰構造が複雑であることが予想される。このような領域において全領域で均質なQ値を仮定することは、同時に推定される震源特性とサイト増幅特性に誤差を生じさせる要因となる。本検討では、友澤ほか(2019)の手法を用いて伝播経路特性の最適な領域分割とそれに基づく不均質減衰構造を推定した。幾何減衰項は、仲野ほか(2014)に倣い、等価震源距離Xeq≦100 kmではγ =1.0、Xeq>100 kmでは20 kmごとの距離範囲で周波数ごとのγ を推定した。ただし、γ に1.0の上限を設けた。
KiK-net新冠(HDKH05)を基準観測点として選定し、その理論増幅特性を拘束条件として震源特性とサイト増幅特性のトレードオフを解消した。HDKH05では笠松ほか(2014)による最適化地盤モデルが得られており、地中観測点位置のS波速度と密度はそれぞれ1.882 km/s、2.33 g/cm3である。地震基盤相当まではインピーダンス比を考慮して補正した。地中観測点位置の理論増幅率 (E+F/2E) を拘束条件とした。
ブロックインバージョン解析では、まずブロックサイズを0.8°×0.8°と大きく設定し、広域の不均質減衰構造を求めた。次に、最小ブロックサイズを0.4°×0.4°、0.2°×0.2°と段階的に小さくして、より詳細な不均質減衰構造を推定した。
推定した震源スペクトルに対してω-2モデルを当てはめた。規模の大きな地震では本検討の解析周波数範囲0.2~20 Hzの中にコーナー周波数fcが含まれない可能性があるため、地震モーメントM0をF-netで公開されている値に固定してfcのみを推定した。M0を固定したのは平成30年北海道胆振東部地震の本震のみであり、その他の地震ではM0とfcの両方を推定した。
4.推定結果
推定された領域分割に着目すると、恵庭岳や樽前山を含む領域ではlow-Qが推定された。平成30年北海道胆振東部地震の震源域から高減衰帯がある方向への伝播は、特に短周期成分で大きく減衰したと考えられる。また、対象領域の東側にはややlow-Qな領域が広範囲に広がっている。日本海東縁部を含む領域のQ値は他の領域よりも相対的にhigh-Qとなった。2004年留萌支庁南部の地震の周辺では、活火山が無いにもかかわらずlow-Qが推定されている領域があった。これらの領域のQ値と佐藤(2010)によるQ値を比較すると定性的には整合した。
建物被害が集中したK-NET鵡川 (HKD126) では、1~3 Hz のサイト増幅率が10倍程度と大きかった。平成30年北海道胆振東部地震の本震の短周期レベルは、壇ほか(2001)の平均の1.5倍程度と推定された。
参考文献
笠松健太郎,池浦友則,岡崎敦:KiK-net地点における応答スペクトルのはぎとり倍率, 日本建築学会大会学術講演梗概集, 413-414, 2014.
佐藤智美:逆断層と横ずれ断層の違いを考慮した日本の地殻内地震の短周期レベルのスケーリング則,日本建築学会構造系論文集,第75巻,第651号,pp.923-932,2010.
壇一男,渡辺基史,佐藤俊明,石井透:断層の非一様すべり破壊モデルから算定される短周期レベルと半経験的波形合成法による強震動予測のための震源断層のモデル化,日本建築学会構造系論文集,第66巻,第545号,pp.51-62,2001.
友澤裕介,加藤研一,野尻揮一朗:地震動の伝播経路特性の領域分割に着目した不均質減衰構造・震源特性・サイト増幅特性の推定 2008年岩手・宮城内陸地震の震源域を対象とした検討、日本建築学会構造系論文集,第84巻,第756号,pp.171-181,2019.
仲野健一,川瀬博,松島信一:スペクトルインバージョン手法に基づく強震動特性の統計的性質に関する研究,日本地震工学会論文集,第14巻,第2号,pp.67-83,2014.
北海道では活火山が存在するため、減衰構造が均質ではない可能性が考えられる。そこで、平成30年北海道胆振東部地震を含む北海道西部で発生した強震観測記録を収集し、震源特性、伝播経路特性、サイト増幅特性をブロックインバージョン解析により推定した。その際、伝播経路特性については空間的な不均質減衰構造を推定した。
2.データセット
K-NET、KiK-net及び泊地震観測点で観測された北海道西部で発生した地震の強震観測記録を収集した。記録の選定条件を以下に挙げる。2018年10月31日までに発生した地震を対象とした。MJは4.5以上とし、震源深さは北海道胆振東部地震の震源域では40 km以浅、その他の領域では30 km以浅とした。ただし、海溝型地震は対象外とした。震源距離は200 km以下とした。K-NET記録は、地盤の非線形化の影響を避けるため最大加速度が三成分ともに200 Gal以下の記録を用いた。KiK-netと泊地震観測点は地中観測記録を用いた。インバージョン結果を安定させるため5観測点以上の記録が得られている地震、5地震以上の記録が得られている観測点を対象とした。観測記録の健全性を確認し、選定した観測記録は、40地震207観測点の2798記録である。
3.解析手法
対象領域に活火山がある場合などは減衰構造が複雑であることが予想される。このような領域において全領域で均質なQ値を仮定することは、同時に推定される震源特性とサイト増幅特性に誤差を生じさせる要因となる。本検討では、友澤ほか(2019)の手法を用いて伝播経路特性の最適な領域分割とそれに基づく不均質減衰構造を推定した。幾何減衰項は、仲野ほか(2014)に倣い、等価震源距離Xeq≦100 kmではγ =1.0、Xeq>100 kmでは20 kmごとの距離範囲で周波数ごとのγ を推定した。ただし、γ に1.0の上限を設けた。
KiK-net新冠(HDKH05)を基準観測点として選定し、その理論増幅特性を拘束条件として震源特性とサイト増幅特性のトレードオフを解消した。HDKH05では笠松ほか(2014)による最適化地盤モデルが得られており、地中観測点位置のS波速度と密度はそれぞれ1.882 km/s、2.33 g/cm3である。地震基盤相当まではインピーダンス比を考慮して補正した。地中観測点位置の理論増幅率 (E+F/2E) を拘束条件とした。
ブロックインバージョン解析では、まずブロックサイズを0.8°×0.8°と大きく設定し、広域の不均質減衰構造を求めた。次に、最小ブロックサイズを0.4°×0.4°、0.2°×0.2°と段階的に小さくして、より詳細な不均質減衰構造を推定した。
推定した震源スペクトルに対してω-2モデルを当てはめた。規模の大きな地震では本検討の解析周波数範囲0.2~20 Hzの中にコーナー周波数fcが含まれない可能性があるため、地震モーメントM0をF-netで公開されている値に固定してfcのみを推定した。M0を固定したのは平成30年北海道胆振東部地震の本震のみであり、その他の地震ではM0とfcの両方を推定した。
4.推定結果
推定された領域分割に着目すると、恵庭岳や樽前山を含む領域ではlow-Qが推定された。平成30年北海道胆振東部地震の震源域から高減衰帯がある方向への伝播は、特に短周期成分で大きく減衰したと考えられる。また、対象領域の東側にはややlow-Qな領域が広範囲に広がっている。日本海東縁部を含む領域のQ値は他の領域よりも相対的にhigh-Qとなった。2004年留萌支庁南部の地震の周辺では、活火山が無いにもかかわらずlow-Qが推定されている領域があった。これらの領域のQ値と佐藤(2010)によるQ値を比較すると定性的には整合した。
建物被害が集中したK-NET鵡川 (HKD126) では、1~3 Hz のサイト増幅率が10倍程度と大きかった。平成30年北海道胆振東部地震の本震の短周期レベルは、壇ほか(2001)の平均の1.5倍程度と推定された。
参考文献
笠松健太郎,池浦友則,岡崎敦:KiK-net地点における応答スペクトルのはぎとり倍率, 日本建築学会大会学術講演梗概集, 413-414, 2014.
佐藤智美:逆断層と横ずれ断層の違いを考慮した日本の地殻内地震の短周期レベルのスケーリング則,日本建築学会構造系論文集,第75巻,第651号,pp.923-932,2010.
壇一男,渡辺基史,佐藤俊明,石井透:断層の非一様すべり破壊モデルから算定される短周期レベルと半経験的波形合成法による強震動予測のための震源断層のモデル化,日本建築学会構造系論文集,第66巻,第545号,pp.51-62,2001.
友澤裕介,加藤研一,野尻揮一朗:地震動の伝播経路特性の領域分割に着目した不均質減衰構造・震源特性・サイト増幅特性の推定 2008年岩手・宮城内陸地震の震源域を対象とした検討、日本建築学会構造系論文集,第84巻,第756号,pp.171-181,2019.
仲野健一,川瀬博,松島信一:スペクトルインバージョン手法に基づく強震動特性の統計的性質に関する研究,日本地震工学会論文集,第14巻,第2号,pp.67-83,2014.