5:15 PM - 6:45 PM
[S15P-13] Examination about setting of outer and inner fault parameters for near-fault records simulation at the 2016 Kumamoto earthquake main shock
2016年熊本地震本震時の震源過程を推定する震源インバージョン解析がこれまで数多く行われている。
これらの震源インバージョン解析に基づく不均質震源モデルの断層面は主に余震分布や地表地震断層の分布を参考に設定されていて,共通して日奈久断層帯と布田川断層帯がモデル化されている。
例えばAsano and Iwata(EPS,2016)や引間(JAEE,2016)は日奈久断層と布田川断層に対応する2枚のセグメントから構成されている。Kubo et al.(EPS,2016)は3つの矩形セグメントとそれらの遷移セグメントからなる曲面断層モデルを構築している。Kobayashi et al.(GRL,2017)では日奈久断層,布田川断層及び出ノ口断層をモデル化し,計5枚のセグメントから構成される震源モデルとなっている。Yoshida et al.(EPS,2017)は日奈久断層と布田川断層について4枚のセグメントからなるモデルを示している。
このように2016年熊本地震本震を対象とした不均質震源モデルはさまざまな巨視的断層面が示されている。
また,これらの不均質震源モデルの巨視的断層パラメータやすべり分布を参照した特性化震源モデルによる検討も数多く行われている(例えば,佐藤[AIJ,2017],田中・他[AIJ,2018],松元・他[JEES,2018]など)。これらの特性化震源モデルを用いた検討では,SMGAとLMGA(入倉・倉橋[JAEE,2017])と呼ばれる地震発生層以浅のすべり破壊により震源近傍の速度パルスを再現できることがわかってきた。このような特性化震源モデルに基づく震源近傍における再現強震動においては,震源モデルの巨視的断層面の設定は計算結果に大きく影響するため,震源モデルの巨視的・微視的断層パラメータの設定は震源近傍の理論地震動を議論するうえで重要である。熊本地震の巨視的断層パラメータの設定について,出ノ口断層の影響や阿蘇カルデラ内のセグメントについては議論がなされているが(例えば,Kobayashi et al.[2017],田中・他[2018],Yoshida et al.[2017]),日奈久断層や布田川断層の南西部(布田川断層と日奈久断層の接続区間や木山断層)の巨視的断層パラメータの設定についてはそれほど議論されていないように思われる。例えば,益城町の観測点(KiK-net益城,益城町宮園)とK-NET熊本の距離は僅か4km程度であるが,それぞれの地点で観測された強震動は大きく異なる。これらの違いについては,地下構造の差異による影響もあるが,益城町の観測点とK-NET熊本は日奈久断層と布田川断層の接続区間に位置することから,複雑な断層運動による影響も大きいことが推測される。
そこで本検討では,既往の震源インバージョン解析に基づく不均質震源モデル,不均質震源モデルをベースに設定された特性化震源モデル,測地データを基に構築された地殻変動分布を再現するための均質すべり震源モデル(例えば,Ozawa et al.,EPS,2016)やShirahama et al.(EPS,2016)による地表地震断層分布等を参照し,震源モデルの巨視的・微視的断層パラメータに関して,強震動再現,永久変位分布再現の観点からケーススタディを行った。
Yoshida et al.とOzawa et al.の巨視的断層パラメータを参照し,益城町付近で確認される2条の地表断層(日奈久断層帯から布川断層帯へ接続する区間と木山断層帯区間)について,2条の断層すべりと上向きの破壊伝播効果を考慮すると,益城町や熊本市内の観測点における強震動の再現精度が向上することを確認した。日奈久断層の巨視的パラメータの設定として,例えば引間(JAEE,2016)の日奈久断層のすべり破壊は益城町の観測点における強震動にほとんど寄与しない。一方で,Asano and Iwata(EPS,2016)やKobayashi et al.(GRL,2017)のような日奈久断層の巨視的パラメータを用いた場合は,益城町における再現強震動に日奈久断層のすべり破壊の影響が少なからず含まれると考えられる。益城町における大振幅速度パルスについて,多くの震源インバージョン解析に基づく不均質震源モデルで示されている上向きの破壊伝播効果がもたらすDirectivity Pulseの影響が大きいと考えられているが,日奈久断層の巨視的・微視的断層パラメータの設定によっては日奈久断層からの横ずれ断層の破壊が走向方向に伝播することによる,所謂通常のDirectity Pulseによっても速度パルスを再現することができる。これらの設定の差異は震源近傍観測点の強震動再現に対して与える影響の差異は大きいが,震源遠方の観測点に対する影響の差異は小さいため,それぞれのモデルの妥当性を示すことは現状では困難である。
阿蘇カルデラ内の巨視的断層パラメータとして,北西傾斜,南東傾斜のケースについて,永久変位の面的分布との比較からYoshida et al.と同様に南東傾斜モデルであれば,阿蘇カルデラ内の沈降の傾向を再現できることを確認した。長周期で卓越する地震動を観測したK-NET一の宮の再現強震動について阿蘇カルデラ内のセグメントに2つのSMGAを設定することで再現精度が向上することを確認した。一方で,阿蘇カルデラ内に位置する観測点や,KMM004より更に東に位置する93006への阿蘇カルデラ内のセグメントのSMGAによる寄与は小さく,Yoshida et al.と同様の傾向となった。
謝辞:防災科学技術研究所強震観測網(K-NET,KiK-net),気象庁,熊本県地方公共団体による強震記録を利用させて頂きました。東京電力ホールディングスの引間和人博士にはインバージョン解析のデータを提供して頂きました。防災科学技術研究所HPで公開されているKubo et al.(EPS,2016)の震源モデルのデジタルデータ,京都大学防災研究所の浅野公之博士のHPで公開されているAsano and Iwata(EPS,2016)の震源モデルのデジタルデータを利用させて頂きました。記して謝意を表します。
これらの震源インバージョン解析に基づく不均質震源モデルの断層面は主に余震分布や地表地震断層の分布を参考に設定されていて,共通して日奈久断層帯と布田川断層帯がモデル化されている。
例えばAsano and Iwata(EPS,2016)や引間(JAEE,2016)は日奈久断層と布田川断層に対応する2枚のセグメントから構成されている。Kubo et al.(EPS,2016)は3つの矩形セグメントとそれらの遷移セグメントからなる曲面断層モデルを構築している。Kobayashi et al.(GRL,2017)では日奈久断層,布田川断層及び出ノ口断層をモデル化し,計5枚のセグメントから構成される震源モデルとなっている。Yoshida et al.(EPS,2017)は日奈久断層と布田川断層について4枚のセグメントからなるモデルを示している。
このように2016年熊本地震本震を対象とした不均質震源モデルはさまざまな巨視的断層面が示されている。
また,これらの不均質震源モデルの巨視的断層パラメータやすべり分布を参照した特性化震源モデルによる検討も数多く行われている(例えば,佐藤[AIJ,2017],田中・他[AIJ,2018],松元・他[JEES,2018]など)。これらの特性化震源モデルを用いた検討では,SMGAとLMGA(入倉・倉橋[JAEE,2017])と呼ばれる地震発生層以浅のすべり破壊により震源近傍の速度パルスを再現できることがわかってきた。このような特性化震源モデルに基づく震源近傍における再現強震動においては,震源モデルの巨視的断層面の設定は計算結果に大きく影響するため,震源モデルの巨視的・微視的断層パラメータの設定は震源近傍の理論地震動を議論するうえで重要である。熊本地震の巨視的断層パラメータの設定について,出ノ口断層の影響や阿蘇カルデラ内のセグメントについては議論がなされているが(例えば,Kobayashi et al.[2017],田中・他[2018],Yoshida et al.[2017]),日奈久断層や布田川断層の南西部(布田川断層と日奈久断層の接続区間や木山断層)の巨視的断層パラメータの設定についてはそれほど議論されていないように思われる。例えば,益城町の観測点(KiK-net益城,益城町宮園)とK-NET熊本の距離は僅か4km程度であるが,それぞれの地点で観測された強震動は大きく異なる。これらの違いについては,地下構造の差異による影響もあるが,益城町の観測点とK-NET熊本は日奈久断層と布田川断層の接続区間に位置することから,複雑な断層運動による影響も大きいことが推測される。
そこで本検討では,既往の震源インバージョン解析に基づく不均質震源モデル,不均質震源モデルをベースに設定された特性化震源モデル,測地データを基に構築された地殻変動分布を再現するための均質すべり震源モデル(例えば,Ozawa et al.,EPS,2016)やShirahama et al.(EPS,2016)による地表地震断層分布等を参照し,震源モデルの巨視的・微視的断層パラメータに関して,強震動再現,永久変位分布再現の観点からケーススタディを行った。
Yoshida et al.とOzawa et al.の巨視的断層パラメータを参照し,益城町付近で確認される2条の地表断層(日奈久断層帯から布川断層帯へ接続する区間と木山断層帯区間)について,2条の断層すべりと上向きの破壊伝播効果を考慮すると,益城町や熊本市内の観測点における強震動の再現精度が向上することを確認した。日奈久断層の巨視的パラメータの設定として,例えば引間(JAEE,2016)の日奈久断層のすべり破壊は益城町の観測点における強震動にほとんど寄与しない。一方で,Asano and Iwata(EPS,2016)やKobayashi et al.(GRL,2017)のような日奈久断層の巨視的パラメータを用いた場合は,益城町における再現強震動に日奈久断層のすべり破壊の影響が少なからず含まれると考えられる。益城町における大振幅速度パルスについて,多くの震源インバージョン解析に基づく不均質震源モデルで示されている上向きの破壊伝播効果がもたらすDirectivity Pulseの影響が大きいと考えられているが,日奈久断層の巨視的・微視的断層パラメータの設定によっては日奈久断層からの横ずれ断層の破壊が走向方向に伝播することによる,所謂通常のDirectity Pulseによっても速度パルスを再現することができる。これらの設定の差異は震源近傍観測点の強震動再現に対して与える影響の差異は大きいが,震源遠方の観測点に対する影響の差異は小さいため,それぞれのモデルの妥当性を示すことは現状では困難である。
阿蘇カルデラ内の巨視的断層パラメータとして,北西傾斜,南東傾斜のケースについて,永久変位の面的分布との比較からYoshida et al.と同様に南東傾斜モデルであれば,阿蘇カルデラ内の沈降の傾向を再現できることを確認した。長周期で卓越する地震動を観測したK-NET一の宮の再現強震動について阿蘇カルデラ内のセグメントに2つのSMGAを設定することで再現精度が向上することを確認した。一方で,阿蘇カルデラ内に位置する観測点や,KMM004より更に東に位置する93006への阿蘇カルデラ内のセグメントのSMGAによる寄与は小さく,Yoshida et al.と同様の傾向となった。
謝辞:防災科学技術研究所強震観測網(K-NET,KiK-net),気象庁,熊本県地方公共団体による強震記録を利用させて頂きました。東京電力ホールディングスの引間和人博士にはインバージョン解析のデータを提供して頂きました。防災科学技術研究所HPで公開されているKubo et al.(EPS,2016)の震源モデルのデジタルデータ,京都大学防災研究所の浅野公之博士のHPで公開されているAsano and Iwata(EPS,2016)の震源モデルのデジタルデータを利用させて頂きました。記して謝意を表します。