日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S17. 津波

S17P

2019年9月17日(火) 17:00 〜 18:30 P会場 (時計台国際交流ホールII・III)

17:00 〜 18:30

[S17P-06] MT/CMT解を用いた東日本太平洋沿岸域の津波予測

豊田 晶大1、*河原 純1、齊藤 竜彦2 (1. 茨城大学大学院理工学研究科、2. 防災科学技術研究所)

はじめに

地震による津波の波高や浸水域を即時予測するために、多様な手法が提案されている。例えば、多数の津波伝播シミュレーションの結果をデータベース化して検索する方法(舘畑1996, 近貞・他2019)、沖合津波計などのデータを用いた津波の初期波形の逆解析と伝播の順解析(Tsushima et al. 2009, 2014) やデータ同化による順解析(Maeda et al. 2015, Wang et al. 2017)、沖合に対する沿岸の波高増幅率を求める方法(Baba et al. 2004, 2014) などである。一方、Inazu et al. (2016) はSWIFTシステム(Nakano et al. 2008) で自動決定されたCMT解に基づいて波源域を設定して津波伝播を計算するシステムを開発し、海外3地域で発生した津波の予測値と観測値の比較を行った。中村・他(2017) はAQUAシステム(松村・他2006) によるMT/CMT解を用いて、速報性に重点を置いた予測システムを開発した。これらの研究では線形長波近似に基づく差分計算を行っており、遡上・浸水の予測は行っていない。

本研究では、東日本太平洋沿岸域を対象として、Inazu et al. (2016) と同様な手法による津波予測を行い、観測値との比較検討を行った。またMw等のパラメータの違いが結果に与える影響を検討した。データにはAQUA-MT/CMT解を使用し、津波の計算には移流や海底摩擦も考慮した非線形長波近似に基づく差分法(Saito et al. 2014) を使用した。



データと手法

解析には、東日本太平洋沖で発生し、津波が観測されたMw 6.5-7.2の7つの地震のMT/CMT解を用いた。Inazu et al. (2016) に準じて、1つのMT/CMT解に対し、宇津(2011) またはMurotani et al. (2013) のスケーリング則に基づき、それぞれ2つの共役断層面のモデルを設定した。これらの計4つの断層モデルのそれぞれについて津波の初期波形を推定し、津波伝播シミュレーションを行った。計算に際してはInazuらと同様、ETOPO1 (Amante and Eakins 2009) の海底地形データを用いた。ただし彼らがデータを5分角間隔でリサンプルしたのに対し、本研究では予測精度向上のため500 m間隔にリサンプル(内挿)したものを用いた。計算結果を、東日本太平洋側の沿岸・沖合の各種観測点の水位データと比較した。



結果

沿岸の験潮場・検潮所で観測された最大波高データを予測値と比べた結果をFig.1に示す。予測値は観測値の3-1/3倍の範囲に概ね収まっており、Inazu et al. (2016) の同様な比較の結果(5-1/5倍)に比べて精度の向上が見られたが、全体としてやや過小評価の傾向も認められた。Fig.2はNOWPHASの沖合GPS波浪計データに関する同様な比較の結果である。この場合は予測値が概ね観測値の2-1/2倍の範囲に収まっており、Inazuらの結果と同等であった。なお、第1波の到来時間については、全体として観測より計算結果の方が若干早い(数-10分)傾向が見られた。

予測結果に対するモデルパラメータの誤差の影響を見るために、各パラメータを若干変動させる実験も行い、断層モデルを規定するMwや震源/セントロイドの深さの誤差が波形や波高に有意な影響を及ぼすことを確認した。特に沿岸での波形の場合、観測点の位置の小さな誤差(例えば1グリッド間隔のずれ)が結果に大きな影響を与えることが示された。これは沿岸付近の地形データの空間解像度が予測精度に強く効くことを示唆する。今後、遡上・浸水を伴うケースについても検討する。



謝辞
防災科学技術研究所が提供するAQUA-MT/CMT解および地殻変動計算プログラム(Okada 1992)、米国NOAAのETOPO1データ、国土地理院の験潮場の波形データ、気象庁の検潮所の最大波高データ、国土交通省港湾局NOWPHASのGPS波浪計による波形データを使用させていただきました。