日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S17. 津波

S17P

2019年9月17日(火) 17:00 〜 18:30 P会場 (時計台国際交流ホールII・III)

17:00 〜 18:30

[S17P-10] 日本海東縁部の北海道沖・東北沖で20世紀に発生した地震の津波断層モデルの検証

*室谷 智子1、佐竹 健治2、石辺 岳男3 (1. 国立科学博物館、2. 東京大学地震研究所、3. 地震予知総合研究振興会)

日本海東縁部には多くの海底活断層が存在することから,「日本海における大規模地震に関する調査検討会」(以下,日本海検討会)や「日本海地震・津波調査プロジェクト」(以下,日本海プロジェクト)によって,海域構造調査等に基づいた海底活断層のパラメータが推定されている.本地域では20世紀に大地震が発生し,日本海沿岸域に津波被害をもたらしていることから,過去に発生した地震の津波断層モデルを調べることが重要である.本研究では,1993年北海道南西沖地震(Mj 7.8),1983年日本海中部地震(Mj 7.7),1940年積丹半島沖の地震(Mj 7.5)の3地震を対象として,既往研究による断層モデルに加え,日本海検討会や日本海プロジェクトの断層モデルによる津波を計算し,日本沿岸およびロシア沿海州・サハリン沿岸で記録された津波波形との比較を行った.

1993年北海道南西沖地震については,Tanioka et al.(1995, GRL:検潮・測地データ),Mendoza and Fukuyama(1996, JGR:近地・遠地地震波形),高橋ほか(1995,土木学会東北支部技術研究発表会:沿岸津波高)による断層モデルに加え,日本海検討会が北海道南西沖地震相当としたモデル(F14,F15断層),日本海プロジェクトで得られた海底活断層から設定したモデルを用い,Tanioka et al. (1995) が用いた日本と韓国の沿岸18点に加え,ロシアのVladivostok,Pos’et,Nakhodka,Uglegorskでの津波波形を計算した.1983年日本海中部地震については,Satake(1989, JGR:検潮データ),Fukuyama and Irikura(1986, BSSA:近地地震波形),日本海検討会が日本海中部地震相当としたモデル(F24断層)を用い,Satake (1989) が用いた日本沿岸8点に加え,ロシアのVladivostok、Pos’et,Nakhodka,Rudnaya Pristanでの波形を計算した.1940年積丹半島沖の地震については,Satake (1986, PEPI:検潮データ) ,Okamura et al.(2005, JGR:海底地形調査・検潮データ),Ohsumi and Fujiwara(2017, JDR:沿岸津波高),日本海プロジェクトで海底活断層から設定したモデルを用い,Okamura et al. (2005) が用いた日本沿岸7点に加え,ロシアのVladivostok,Bolshoy Kamen,Nevelskでの波形を計算した.日本海検討会や高橋ほか(1995),Ohsumi and Fujiwara (2017) では,検潮記録との比較は行われていないため,断層モデルの検証は重要である.日本海プロジェクトで得られた断層モデルに対してはすべり量の検討が行われていないため,地震本部による「震源断層を特定した地震の強震動予測手法(「レシピ」)」のうち、「(ア)過去の地震記録や調査結果などの諸知見を吟味・判断して震源断層モデルを設定する場合」(以下,レシピ(ア))の方法を用いてすべり量を設定した.以上の断層パラメータからOkada (1985, BSSA) によって計算した海底地殻変動を初期条件とし,津波計算コードJAGURS(Baba et al., 2015, PAGEOPH)を用いて非分散の非線形長波式で津波波形を計算した.海底地形は,JTOPO30とM7000シリーズから30秒(約900 m)メッシュのグリッドデータを作成した.

その結果,津波波形インバージョンによって得られた断層モデルが,いずれの地震に対しても最も良く観測波形を再現した.地震波形インバージョンによる断層モデルでは,津波初動が反転する観測点も見られた.日本海検討会は,各海底活断層の最大クラスのすべり量(6 mで飽和)を設定しているため,計算された津波波形の振幅は観測波形に比べてかなり大きい.またレシピ(ア)で計算されたすべり量を用いた場合でも,津波波形等のインバージョン結果による値よりも大きく,同様の結果となった.ロシア沿岸の観測波形については,検潮所付近の詳細な地形データがないため再現性が低い観測点があり,今後の課題である.1940年の地震については,検討対象とした各モデルによって断層の位置,走向,傾斜がかなり異なるが,日本沿岸での津波計算波形には顕著な差は見られなかった.一方で,ロシアの観測記録を説明するためには,津波波形インバージョンではすべり量が小さかった断層において,大きなすべりが必要である可能性が示唆される結果となった.

本研究は文部科学省委託事業「日本海地震・津波調査プロジェクト」によって行われた.