Seismological Society of Japan Fall Meeting

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Poster session (Sept. 18th)

Special session » S21. Long-Period Ground Motion -Generation Mechanism and Structural & Social Response-

S21P

Wed. Sep 18, 2019 1:00 PM - 2:30 PM ROOM P (International Conference Halls II and III)

1:00 PM - 2:30 PM

[S21P-02] Characteristic source model with rupture heterogeneity for long-period ground motion prediction of megathrust (M8-9) earthquakes

*Asako Iwaki1, Takahiro Maeda1, Nobuyuki Morikawa1, Hiroyuki Fujiwara1 (1. National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience)

M8程度以上の巨大地震の長周期地震動シミュレーションにおいてアスペリティサイズより小さいスケールの破壊不均質性を付与することで周期数秒程度以下の地震動の過小評価を解消する方法が提案されている(Sekiguchi et al. 2008).地震調査研究推進本部による相模トラフの長周期地震動評価(同, 2016)では,2003年十勝沖地震の記録を用いた検証に基づき特性化震源モデルに破壊不均質性が付与された.
南海トラフ地震についても,震源パラメータの不確実性を考慮した多様な震源モデル群に基づく長周期地震動評価を進めている.本検討では,M9級を含む南海トラフ地震についての特性化震源モデル構築についての知見を得るため,M9級の海溝型巨大地震である2011年東北地方太平洋沖地震の既往の震源モデルを参照して特性化震源モデルを構築する.おおむね周期2-20秒を対象として地震動シミュレーションを実施し,不均質導入の効果や観測記録の再現性を調べる.

2011年東北地方太平洋沖地震については,周期10秒程度を境にして短周期側と長周期側で震源像が異なること示唆されており,それらは互いに相補的であるとの見方もある(三宅・他2016).本検討では,海溝軸付近の浅い領域に位置し比較的長周期に寄与する大すべり域,それより深い領域に位置し短周期に寄与するSMGA,そして背景領域からなる特性化震源モデルを構築する.SMGAの位置,すべり量,応力降下量は川辺・釜江(2013)を参照する.海溝軸付近の大すべり域は津波レシピ(地震調査委員会, 2017)を参考に2つの領域を設定する(以下,LMGAとSLMGA).全体の震源域及び地震モーメントをインバージョン解析による震源モデル(Suzuki et al. 2011)から設定し,全体からSMGA,LMGA,SLMGAを除いた残りの領域を背景領域とする.
すべり速度時間関数はSMGAおよび背景領域内は中村・宮武(2000)式,LMGAとSLMGAでは背景領域と同じライズタイムを持つ三角形関数とした.
この地震では,不連続的な破壊や同じ場所の繰り返し破壊など複雑な破壊進展が示唆されており,断層全体の破壊終了までには時間がかかっている.本検討では,単純化した震源モデルでできるだけ観測波形を説明するため,各SMGA内部は川辺・釜江(2013)による破壊開始点と破壊遅れを用いて一定速度(S波速度の72%)で,またSMGA以外の領域では全体の破壊開始点からSMGA内よりも10%遅い速度で破壊が伝播するものとした.
以上により設定した特性化震源モデル(均質モデル)に,Iwaki et al. (2016)と同様の方法で最小SMGAサイズ以下のスケールですべり量,すべり角,破壊伝播速度に不均質性を付与した(不均質モデル).

全国一次地下構造モデル(地震調査委員会, 2012)を用いて周期2秒以上を対象に三次元差分法(GMS;青井・他2004)により青森県~静岡県にかけた領域で工学的基盤上の地震動を計算した.
不均質性導入の効果をフーリエ振幅スペクトル(FAS)で見ると,不均質モデルは周期6 - 8秒程度以下で均質モデルよりも系統的に振幅が大きく,周期2秒では計算領域内の平均で2倍強の振幅になった.周期10秒以上では,空間的なばらつきは大きいものの平均としては均質モデルとの比は1に近い.
観測記録との比較では,周期10秒以下で見るとどちらのモデルも速度波形の主な波群の到来時刻などは観測記録と整合的だが,波形の振幅は均質モデルよりも不均質モデルの方が大きく観測記録との整合性もよい.関東平野内や日本海側の堆積層の厚い観測点でも,不均質モデルの方が継続時間の長い地震動の振幅をよりよく再現している.なお,川辺・釜江(2013)による破壊遅れと破壊開始点位置の設定は波形の特徴の再現に大きく貢献している.これらを考慮しない場合,単純な同心円状破壊よりはmulti-hypocenterの破壊様式のほうがFASの再現性が周期10秒以下で系統的によいことも分かった.
周期10-20秒の帯域については,東北地方や日本海側ではFASの再現性は良かったが,関東以南では観測記録を過小評価傾向となった.この帯域に寄与しているSMGA以外の震源域のモデル化について今後検討する.

以上により東北地方太平洋沖地震の既往震源モデルを参照して破壊不均質性を含む特性化震源モデルを構築し,周期2-20秒の地震動を概ね再現できることを示した.南海トラフ地震への適用に際しては,M9級地震の破壊進展の複雑さや,周期帯で異なる震源特性が課題としてあげられる.

本研究は,文部科学省・平成30年度長周期地震動ハザードマップ作成等支援事業「長周期地震動ハザードマップ作成のための基礎調査・モデル作成等」により実施した.