Seismological Society of Japan Fall Meeting

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Poster session (Sept. 18th)

Special session » S21. Long-Period Ground Motion -Generation Mechanism and Structural & Social Response-

S21P

Wed. Sep 18, 2019 1:00 PM - 2:30 PM ROOM P (International Conference Halls II and III)

1:00 PM - 2:30 PM

[S21P-03] Numerical Experiments toward Simplified Prediction of Short-Distance Variation of Long-Period Strong Ground Motion Amplitudes

*Ken Hatayama1 (1. National Research Institute of Fire and Disaster)

堆積盆地で観測される周期数秒から十数秒の長周期地震動の主成分を表面波であるとした場合,その波長は水平方向におおむね数kmから20ないし30kmと見積もられるが,この波長に比べて1波長にも満たないような短い距離で長周期地震動のスペクトル振幅が大きく異なる(例えば1.5倍とか)事例またはそれを示唆するような事例がしばしば観測される.

このような短い距離で長周期地震動特性の違いが生じる仕組み・要因を理解することは,長周期地震動予測の精度向上の方策を探る上で有意義と考える.この見地から,2017年と2018年の本学会秋季大会では,予備的検討として,横方向に不規則な地下構造の中を伝播するLove波とRayleigh波に関する簡単な数値実験を行い,次のような結果を発表した.

(1)長周期地震動を構成する地震波の波長に比べて1波長にも満たないような短い距離でも,地震動のスペクトル振幅が数倍程度異なりうることが理論的な計算から確認された.

(2)横方向に不規則な地下構造において形成される長周期地震動の波動場の深さ方向のフーリエスペクトル振幅分布は,入射波の条件や周期によっては,その地点直下の1次元地下構造から計算される表面波の固有関数の形状と概ね一致する場合がある.

(3)この性質をうまく利用すれば,対象地点直下の1次元地下構造モデルから簡易な方法で,長周期地震動の増幅特性を粗くではあるかもしれないが推定することが可能かもしれない.

 横方向に不規則な構造における表面波の伝播に関しては,グローバルな長周期(周期20秒以上)表面波を対象として,波線理論を用いた研究がなされてきた.Tromp and Dahlen(1992)は,エネルギー流速の保存則から,ある波線上の地表面上の2地点間における表面波のスペクトル振幅の比は,幾何減衰の影響を無視できる場合には,それぞれの地点の直下の1次元速度構造から計算される(i)地表における表面波固有関数の値,(ii)群速度,(iii)エネルギ-積分による簡単な代数演算で表現できることを導いた(以下,表面波伝達関数という).

Bowden and Tsai(2016)は,この表面波伝達関数は,横方向の速度構造の変化が十分緩やかな場合には,周期数秒程度の表面波にも適用可能であると考えた.また,元々はある一つの波線上で成立する関係式ではあるものの,その条件を大胆に緩め,任意の2地点間(といっても堆積盆地内とその周辺の地震波動場における任意の2地点程度の意)の振幅比を与えうるものと仮定し,Los Angeles盆地で観測された表面波の周期2.5秒成分の増幅特性が,各地点直下の1次元速度構造に対するS波鉛直入射から計算される増幅特性(以下,S波伝達関数という)よりも,表面波伝達関数により,よく説明できることを定性的に示した.彼らは,差分法による2次元波動伝播シミュレーションに基づく検討から,表面波伝達関数の適用可能性が確認されたと主張しているが,Bowden and Tsai(2016)にはそのデータが示されていない.また,表面波伝達関数の実際問題への定量的な適用可能性の評価には,3次元波動伝播シミュレーションに基づく精度の検証が必要である.このようなことから,まず,2次元波動伝播シミュレーションで計算した表面波波動場の増幅特性が,表面波伝達関数によってどの程度説明できるか調べることにした.

 図(a)は,波動伝播シミュレーションを行った2次元速度構造モデルである.これは,2003年十勝沖地震の際の苫小牧における長周期地震動のシミュレーションのために用いた勇払平野の地下構造モデルである.このモデルの右側(南東側)の水平成層部分からRayleigh波基本モードを入射させた場合の面内波動場を差分法により計算し,地表各点の水平動のフーリエスペクトル振幅をR地点のそれで除したものを疑似観測データ(観測増幅率)とした.図(b)に周期6秒における観測増幅率(赤線)を示す.同じく図(b)に,表面波伝達関数(青線)とS波伝達関数(黒線)による周期6秒におけるR地点に対する計算増幅率を示す.この検討例では,観測増幅率は,S波伝達関数よりも,表面波伝達関数によってよく説明できている.このケースについて差分法で計算された波動場は,(2)で述べている場合に該当しており,「横方向の速度構造の変化が十分緩やかである」という条件が満足された設定になっていると考えられる.

以上のような比較を,さまざまな周期について行う.また,単純な2次元速度構造モデルやLove波が主体的な波動場も検討対象とする.これらのことにより,横方向に不規則な構造における周期数秒程度の表面波の増幅率の評価に対する1次元速度構造に基づく表面波伝達関数の適用可能性を定量的に調べる.